隣の 1




玄関のドアを開けると、思いがけなく明るい日差しが足元に舞う。
冬の透明な壊れやすいものではない。歩く足にまとわりつく柔らかい光だ。

  もう、春なんだ・・・

寝坊して、今まで暗い室内にいた目は、柔らかい刺激に瞬きする。
サスケは軽く飛び跳ねて庭を横切る。
弾みで道にまで跳び出て初めて、今の自分の様子が恥ずかしくなった。
何気なく普通を装い、道を歩き出す。
でもやっぱり、靴音はリズムを刻んだ。


柔らかい空気に思わず腕を伸ばすと、指先だけは空の青のような冷たい空気に触れる。
季節が移り変わる温度のグラデーションに、サスケは空を仰いで身震いした。
遠くで、昼の時報が聞こえる。

  あ・・・いそがねぇと・・・

サスケは、ショートカットしようと、、周りの家や街路樹の上を見渡した。
・・が、木が新芽を出して、春先の強い風に吹かれている様子に、このままゆっくり歩いていくことにした。
こんな穏やかな空気を跳び越しちまうのはもったいない。

それに遅刻はアイツの専売特許じゃねぇし

フッと笑うと、サスケはカカシの住む家へと向かった。



カカシとアカデミーや任務以外で会うのは初めてだった。
ウスラトンカチなチームメイトとは違い、優秀なサスケをカカシは認めているようだったし、また、技や武器などの実戦に結びつく専門的な話も、二人の間では、よく話題になった。
今日、ぽっかりと空いた一日だけの休暇に、「俺んちに来いよ」とカカシに誘われたのも、ごく自然な流れだった。実際のところは、つい話に夢中になってナルトやサクラを置いてしまうサスケに、カカシがナルトたちの手前、気を使ったのかもしれない。

陽光に髪を弄ばれつつ、サスケは言われた場所にやってきた。
アパートか何かだと思っていたら、そこには小さな平屋の一軒家が建っていた。
木の塀がぐるりを廻り、その庭にある背の高い木の新緑が、風にさざめいている。
ここにも、暖かな春は訪れていた。
古い木戸があり、そこから入ろうとしたら、横から声をかけられた。
  「サスケ!」
振り返ると、カカシが別な木戸から体を出してこっちを見てる。
忍者の装備などしていないラフな格好だ。
  「そっちは裏口だ」
  「あ、ああ・・」
言われた通り、カカシの方に向かう。
  「なんかもう暖かいんだな」
やってくるサスケに、カカシが話しかける。
  「俺、今日、今初めて外に出たからさ」
  「・・・・」
  「春なんだな~」
  「・・・・」
サスケが黙ってカカシを見上げていることに、やっとカカシが気づいた。
  「どうした?」
  「アンタの顔・・・」
  「え?ああ・・」
カカシが肯いて、ついでおかしそうに笑んだ。
その、目がクシャ・・と細くなる様を、サスケは思わず凝視する。
  「俺の顔見んの初めて?・・だったっけ」
  「うん・・・」
  「こんな顔です。よろしく」
笑顔のままカカシは、そう言うと、そのまま家のほうに体を向けた。
必死で隠していたわけじゃないんだ・・・という感じが意外で、サスケはその背を見る。
日に輝く銀髪が、暗い玄関に吸い込まれて、別な人を見ている錯覚にとらわれた・・・

2008.08.02


続く