先輩と過ごす

★ カカシがノーマル設定です ★




「来たよ」
という声と共に、先輩が来た。


アパートの窓から外を見る。もう夕暮れが迫っている寂しい一時だ。
「全く何が悲しいかって」
先輩は、ズカズカと、僕のアパートに入り込み、ついでに僕の心も踏み散らかす。
足音と、リアルに痛い心がシンクロしている・・・・・
「里の財政のためとはいえ・・・ねえ?」
言いながら先輩が、ダイニングの椅子に腰掛けた。
キィッという床を擦る音がした。
先輩は、額当てを外して、顔をすっかり出している。額当てに押されていた髪が不自然に立っていた。
「仕方ないじゃありませんか」
もう何度そう言い返したろう。
もう、何度、そう諫めたろう。
でも、やっぱり、僕の所に来るたび、先輩は同じ事を言う。
そして、それが僕と同意見であると信じて、全く疑っていない。
「わかってるよ」
でも、愚痴りたくなるだろ、と言って、窓の夕日を見ている。
太陽からの透明な光の束が先輩の顔を照らし、もう数日剃っていないような髭が光って見える。
「髭・・・」
と、言いかけると、
「剃ってないよ。もう、忙しいのに、こんな依頼受けるからさあ、上が」
いい加減、僕も情けなくなってくる。
「先輩、でも愚痴多いですねえ~」
呆れた僕の口調に、さすがに先輩はこちらを見る。
マジマジと見つめると、
「そうだね。悪かった」
と謝る。
クソ、と僕は内心吐き出して、そんな先輩の素直な部分が、僕の諦めを悪くしているんだってことを、また確認した。
「お詫びに晩飯でも作るよ」
と、いきなり先輩が立ち上がり、
「材料、ある?」
と尋ねる。
てっきり、外食に流れると思っていた僕は、何も買い置きしていなかった。
「買って来ます」
「ああ・・・・俺も一緒に行くよ」
「え?・・・いや、いいですよ、休んでてください」
「いや、さ、どうせ任務なんだから、仲良く歩いて完成度を高めようよ」
「・・・・・」
全く。
そう、これは任務なんだ。

事の始まりは、四代目の術。
いろんな術を編み出していた彼は、(彼自身、時空の歪みに住んでおり、いまだにいるらしい、という恐ろしい話もある)、その時空の歪みが、ついに時間を超えたワームホールを常在させてしまった。
その穴は、過去に火の国の前身として栄えた日本という国に繋がっており、そこの国民が、里に色々依頼してくるのだ。
未来の僕らにいろんな夢を抱くらしく、「カカシさんとナルトさんが仲良くしているところが見たい」とか、「カカシさんとヤマトさんが仲良く喧嘩しているのを希望」とか、余程の平和主義なのか、そういう意味不明なリクエスト・・・いや、正式な依頼が多く、過去のいろんな珍しい食べ物や品物と引き替えに、里は大喜びだ。
過去と今には、大きな時代の亀裂が何回かあって(それは戦争と自然災害だが)、過去にはあって現代にはないものも、沢山あるのだ。
で、現代の抗争の合間に、僕達は「過去」からの任務もこなしているわけだ。
先輩は凄い人気で、イルカさんや、ナルト、サクラ、サスケとも、そういう任務をこなしている。
極秘扱いのものもあり、一度、三代目との任務もあったようだが、その内容については、一切教えてもらえなかった。依頼者はburabuという人だったが。

今日は、僕が先輩と仲良くする任務。
仲良くしてさえいればいい、というよくわからない任務だが、こういう漠然とした依頼が一番多いので、一挙に片付けられるというメリットがある。
仲良く過ごせばいいので、それをもっとアピールしてやろうよ、というのが、先輩の提案なのだ。
「依頼とはいえ、里の人が全員、そうだと理解しているわけではないので・・・・・」
「はははは・・・・恥ずかしいの、お前」
先輩はのんきに笑っている。
とてもじゃないが、この依頼こそ、僕の本懐です!!なんて言えない。
そう、僕は、本当はこの依頼を大歓迎している。
だって、本気で僕はこの人のことが好きだからだ。
初めてこの依頼を聞いたとき、この世にそんなうまい話があるのかと、何度も自問自答した。
もちろん初めは狂喜したよ。
・・・・・初めはね。

二人して連れ立って外に出る。
時々すれ違う隠密は、このドル箱企画の監視と、日本に売りさばく写真の撮影だ。
ははは、とカメラ目線で笑って、先輩は、
「手でも繋いでみる?」
と言った。
ほんとに、この人は!!!
調子がいいにもほどがある!!!
「先輩、先日サクラに聞いたんですけどね」
「あ?」
「そういうベタすぎるの、流行らないようですよ」
「はあ?」
マジに気分を害した顔で、先輩が八百屋の前に立ち止まる。
「むしろ、ギャグに見えるそうです」
「貴様ぁ・・・・なんだかわからないけど、腹立つなあ?!」
ムッとして、ナスを大人買いしている。
サクラには、「ツンデレ」がやっぱり人気ですよ、とまで言われていたんだが、この空気でその発言は、さすがの僕でもちょっと無理だった。
「じゃ、ちょっと喧嘩するって設定でいいだろ」
先輩はそう言い切ると、僕を置いてスタスタと次の店へと歩いて行く。
喧嘩するほどなんとかって言うしな、とちょっと僕を振り返ったので、僕は思わず吹き出してしまった。

本当に、僕はこの人が・・・・・

好きだ!



 

2011/02/19

 

鉄の国が日本ぽいですね。火の国が未来の日本、というのは超マイ設定です