鳴門の案山子総受文章サイト
無意識に対感知用の結界を張ろうとして、もうすでにあることに気づく。
ああ、火影の部屋はいつもそうだったと思い出す間に、カカシがちょっと笑った。
「もう結界なんて張ってないよ、ココには」
「え?」
「平時だからな」
「じゃあこれはアンタか?」
オレがちょっと驚いてカカシを見下ろした瞬間、顎にもの凄い衝撃を覚えた。
気を抜いていたオレは、あっさり吹っ飛び、執務室のドアの前で辛うじて止まる。
呼吸と共に口からの血が目の前の床に散った。
オレは素早く屈んでいた身体を起こして、ソファの上を見る。
誰もいない。
と、ドアの開く音がして、オレの横に立っているカカシが、
「もう、帰りな」
と言ってオレを見下ろしていた。
「貴様ぁ・・」
カカシは動じない。
オレ達はしばらくにらみ合ったまま対峙していたが、オレが動かなかったのは、実は、この急な展開に対応できなかったせいじゃなかった。
懐かしかったんだ。
ガキじゃなくなったオレは、もちろんカカシの部下でもなくなっていたから、誰かに諫められたり、命令を受けることがなかった。
抵抗したたり、反意を見せれば、ぶちのめしてきたからな。
だから、カカシの行動とセリフに、急に7班のオレに引き戻された感じがして、その感覚を噛みしめていた。
「お前がどう考えようと、俺がイヤなんだよ」
サクラのこと言っている。
でも、オレはカカシだけを見ていた。
胸元がはだけたままで、マスクも顎に落ちて、そんな風情はどう見ても、あっちの連想しかできない状態だ。
実際、かなりゾクゾクくる・・・
ふん、とオレはカカシに向き直る。
カカシの目は多分、オレの口の端から落ちた血液を見た。
「帰るよ」
カカシは反応しない。
オレは、カカシに顔を近づけて、ゆっくり言った。
「出直すだけだ」
「・・・・」
「抵抗していいと言ったのはオレだからな。これは、まあ許容の範囲だ」
言いながら唇の血液を右手で拭う。
「でもアンタ、オレの気持ちを読み違えてるよ」
カカシの目に引っかかりが浮かぶ。
オレの話を聞いている・・・
「アンタがどうしようと、そうだよ、今みたいにオレをブロックしても」
「・・・・」
「それすら、愛おしいって、オレは思ってしまうんだ」
「バカだよ」
うん、とオレは頷く。
「そう思うよ、オレも。でも、これでわかったろ?アンタに二択はない。それに、わかってると思うが」
わざと言葉を切る。
バカなオレは、カカシがオレの話に耳を傾けている様にすら、感じている。
「オレは強いぜ?」
カカシの綺麗な顔が歪んだ。
オレは自分の悪趣味に、自分でちょっと嫌気がさした。
せめて今ここで抱いてしまえば、運命は勝手に転がっていくのに、オレは、カカシに時間を与えている。
傷ついたプライドを抱えて過ごす時間を与えている。
酷いなあ、オレ。
カカシはオレから目を背けると、再び机の方に向かう。
歩きながら、
「好きにすればいいよ」
と言い捨てた。
だが、そう言ったカカシの声は、本当に突き放すようで、オレは自分の中のどこかが冷えたように感じた。