休みの日、君と




赤とんぼが飛んで、もうすっかり秋だった。

足下で囁くような虫の声がして、カカシは手にしたまだ若いススキを振っている。
「もう、何匹飛んだかわからない」
行き交うトンボの数を数えていたらしかった。
そんなことをわざわざ口に出して言う、いつものカカシらしくない不自然さは、オビトには正確に伝わっていた。

さびしいのかな

そう思ってオビトもススキを一本抜き取る。
カカシのまねをして、それを、涼しい空に掲げてみた。

夏よりも、遥か高くなった秋の空は、その淡い色を大きく広げている。
遠くの山際に、刷毛で掃いたような雲が僅かに見えていた。
掲げたススキは、その中にすっくと立ち上がり、カカシもそれを黙って見上げる。
行き違う赤とんぼは、その若い穂に、触れながら、時にちょっと止まりながら、ゆっくり里の方におりていく。

帰ろうか

どちらがそう言ったわけでもないのだが、そのセリフがあったかのように自然に二人は来た道を行く。
オビトが、ススキを振りながら歩き出し、
カカシもゆっくりそれに続く。
任務がなければ、言い争いも衝突もなく、互いに空気を共有して、それが全然いやじゃなかった。

ときどき、耳元を、慌て者のトンボがかすめ飛び、その大きな羽音に首をすくめる。
後ろを振り返ると、まさしくその直後で、カカシがブルッと首を振ったのを見た。
その動作は幼くて、オビトは、ざわめく気持ちを身体の奥に感じた。

たった独りのカカシ

例えようのない気持ちが、静かに自分を浸食する。
生意気で、偉そうで、いつも正論を吐く、イヤな奴。
・・・・なのに。
さっきのカカシの言葉を思い出す。
『もう、何匹飛んだかわからない』
今は亡き両親に甘えるような、子供っぽい声音。
もう少し年を重ねていたら、この自分の気持ちの正体も、わかるのだろうか・・・

ススキを空に立てたまま、
「俺の写輪眼が開眼したら」
と、くだらない事を言いそうな自分に、もう、ストップはかからない。
「ん?」
ススキでトンボを追い払いながら、カカシがこっちを見た。
「ここにいるトンボの数、ちゃんと数えてやるよ」
くだらないセリフに、カカシの目が大きく見開かれる。
色濃い瞳は、色の白い肌に冴えて、こんな印象的な表情のカカシを初めて見たような気がしていた。
「凄いな、オビト!」
カカシがそう言って、それを信じられないオビトが固まる。
「カ、カカシ・・・」
「写輪眼って、そういうこともできるのかい?」
「あ、ああ」
「いいなあ~、俺も欲しいよ!」
こんなに素直な奴だったっけ?
オビトはカカシを見る。
カカシのピョンとはねている銀髪の先に赤とんぼがとまっていた。
もしかしたら、カカシもなにがしかの感傷に侵されていたかもしれない、なんてことは、考えもしなかった。
「お前は写輪眼なんかなくったって、強いさ」
ははは・・・と、カカシが嬉しそうに笑って、その柔らかな振動で、赤とんぼがツッと空に飛び立つ。
二人の目が、そのトンボを空に追って、見えなくなるまでそれを見ていた・・・・





「先生!!」
え?とカカシが目を開ける。
顔の上に伏せてあった18禁本がない。
ナルトとサクラが顔を並べてこちらを覗き込んでいた。
「よく寝てたってば」
「忍者じゃないみたい」
苦笑して身体を起こす。
ナルトやサクラだったせいだろうか、近づかれても全然気づかなかった。
「顔を見るチャンスだったんじゃないのか?」
ナルトが差し出す本を受け取って言う。
「ははは。そんなガキくせえことしねえってば」
「ねえ~」
二人とも、秘密を共有しているかのように、クスクス笑う。
「へえ・・・大人になったんだね」
溜め息をつきながら、周りを見回す。
暑い日差しを避けて、木陰に横になったまでは覚えている。
が、どれくらい寝ていたんだろう、今見る空は、どこまでも高く爽やかで、カカシは瞬間、それに見とれた。
ナルトとサクラはカカシの視線につられて、空を見上げる。
「なんにもないってば」
「あ、トンボが飛んでる」
トンボか。
なんか、そういう夢を見ていたような気がする・・・・
「夏は終わったんだな」
カカシの独り言のようなセリフに、ナルトが勢い込んで、
「食欲の秋だってばよ!!」
と言った。吹き出すカカシに、サクラもつられて笑いながら、
「それなら、アンタは一年中秋じゃないの!!」
と言い返した。
無駄口をたたきながら、三人そろって広い空の下を歩く。
たぶん、この穏やかな風は、何年も前の懐かしい日と同じ風で・・・・
夢を覚えていないカカシは、自分がそういうことを思ってしまうのをちょっと不思議に思った。





気持ちよさそうに、先を歩くカカシの背を見て、ナルトがサクラに囁く。
「オビトって誰なんだろうな?」
シッとサクラがナルトの腕を引っ張る。
「さあ・・・でも、先生に言っちゃダメよ」
「わかってるよ。へへ。でも、かわいい寝言だったってば」
「そうね」
サクラが笑い、その爽やかな空気に溶けた声に、カカシが遠くで振り向いた。




2009.08.01.

もう、オビト、かっこいい!!!「戦場の・・」は、写輪眼と友情、カカシの成長のエピソード(?)で、カカシの未熟な部分が描かれているせいか、カカシより一歩先に成長していて、男で、カッコイイですね。オビカカ、たまらん。ただ、私は、子供同士だと苦手なので、どうしようか・・・・思案中・・・
タイトルはゲンカカのと一緒です