夜の猫 1




子供の成長は早い。
何人もの子供を見送ったはずだが、いつもその早さには驚かされてしまう。
  「先生、恋人いるのか?」
平気でそんな事を聞いてくる。
俺も慣れたもので、
  「ば~か、誰がお前らに見せるか、減る」
と、今では平気で言い返す。
ところが、つい先日までは、「いるのか、すげえな」とか無邪気に喜んでいた子供たちも、いまでは「無理すんなってばよ」と哀れんだ目で俺を見る始末。
  「ナルト~、失礼だな、お前」
  「だって本当のことだってばよ」
そういう話にすら興味ないって感じで、見るからに返事すら面倒くさがっているのがむかつく。
  「根拠あんのかよ?証拠もなしにだな、」
  「ガキみたいだってばよ、先生」
で、それで終わりだ。
俺は、教室の外に駆け出していくナルトの背を見送る。
もう俺の手を離れたその背は、ちょっとだけ俺の知らない誰かに見えて。
その足元に白く埃が舞って、光が乱反射した。


・・・・・


  「うう~・・・っ」
テストの採点で曲がった腰を思いっきり伸ばす。
教官室には、もう俺一人。土曜の午後6時は、そんなものだろう。
外はもう夕暮れのグラデーションだ。
ナルトの指摘通り恋人なんかいない俺は、アカデミーから一歩出て、空を見上げる。
美しい夕焼けは、さびしい俺にもなんとなく優しい。
さわやかなひんやりした空気を吸い込む。
  「こんにちは」
まさに歩き出そうとしたそのとき、背後からそう声をかけられた。
大人の声だったので、慌てて振り返ると、そこにはカカシさんがいた。
  「あ、どうも・・・」
不意を突かれたので、曖昧に口ごもる。
この人の対しては、いささか複雑な思いがある。
複雑って言うか・・・・言ってしまえば簡単なんだけど、ナルトを取られた感・・・
単純だな、俺。
でも単にとられたってわけでもなく、ナルトという人間を理解している少数派という連帯感もある。
とにかく、心を整理しきれてない感じがして、あまりこの人には会いたくなかった。
・・・などと、思っているうちに、なぜか並んで歩き出している。
うへ~、沈黙かよ。
何を喋ればいいんだ・・・・
さっきまでの、夕日に癒されていた俺、カモン!!
  「彼女、いないんですって?」
  「はあ?」
なにいきなり言い出すんだ、この人。
いなきゃなんだってんだ!!
  「今日、午後から雑用みたいな任務入ってましてね」
  「・・・・・」
  「そんとき、ナルトが言ってました」
あんのスピーカーめ。
恥ずかしいだろ、こんなモテそうな人にそんなこと言いやがって。
イラッっとして、足元を見つめると、隣で笑う気配がする。
見ると、覆面のまま、明らかに笑っていた。
  「お、おかしいですか?そりゃ、いい年して彼女の・・」
  「いやいや、俺は、結婚されてるかと思ってました」
げえっ・・・
  「独り身なんて、俺と一緒だったんですね」
  「はあ・・・・い、いやいや、俺、彼女もいませんから!!」
  「俺もですよ」
  「ええええーーーーっ!!!」
カカシさんは、今まで見たことも無いような人懐こそうな表情で(目だけで判断)、おかしそうに俺を見る。
  「そんなに変ですかね」
  「いやあ、モテるんだろうなと思っていたから・・・」
言いながら、本気でほっとしている俺がいた。
そればかりか、この上忍と同じレベルになったような、優越感。
自分が小さい人間であるのはわかってる。
でも、これが、そのあとの変な展開の発端だったなんて・・・・
そのときの俺は知らずに夕日を見上げていた。


・・・・・


夕日は暖かに空気を暖め、並んだ民家の窓からは、美味しそうな夕飯のにおいがする。
別段、他意があったわけではない。俺はごく自然の流れで、
  「飯、どうすんですか?」
と尋ねる。彼女もいなければ、条件は俺と同じ・・・・だろう?
  「別に・・・考えてませんでした」
言うたびに、いちいち微笑む。
何だろうな~からかわれてるのかな~??
  「上忍って、結構先々考えて行動してるのかなって・・・」
ムッとするかなと思いながら言ってみる。
  「そんな風に思いますか?」
笑ってる。
  「え・・はい」
  「仕事だけで精一杯ですよ、俺も」
なんだか俺もつられて笑った。
  「んじゃ・・・一楽でも」
  「はい」
俺たちは並んで一楽に向かった。


・・・・・


ラーメン屋で、あっさり顔を見れたり、カカシさんに意外さを感じたりしながらすごした一時間だが・・・
ところがだ。
食い終わって「えっと・・じゃあ・・」ってな感じになっても、ニコニコして、俺と並んで歩き出す。
もうすっかり辺りは真っ暗で、足元から冷えた空気が上がってくる。
  「あの・・」
  「なんです?」
  「カカシさんの家はどちら・・ですか?」
  「あっちです」
おい!!
全く逆じゃねえか。
  「帰らないんですか?」
もっと飲みたいとか?食い足りないとか?でもたしか、大盛りに全部乗せだったよな。意外とよく食う。
  「今、俺んちに女の人がいて・・・」
  「はあ?」
一瞬ムカッときたが、カカシさんが続けるので、我慢して聞く。
  「五代目の預かり物(人ですけど)なんですよ。わけありで」
今度は逆に不安になる。任務か?帰らなくていいのか?
俺の表情を見て、カカシさんは微笑む。
  「いや、任務じゃないです。ほんと私的なことで使われてるだけですから」
  「はぁ・・・」
  「女性に貸してるんで、今夜どうしよっかなぁと思っていたら、イルカ先生が・・」
  「・・・・」
  「んで、ご飯食べて・・・これからどうしようかな。」
  「・・・・」
  「決めてないんで、こうして歩いてるんですが」
なんて変な人なんだろう。客観的に見れば、ここで俺が『俺の家に来ませんか』ってなるんだろうけど・・・
でも、ナルトたちを人質にとられているような今の状況では、そう言わざるをえない・・・・のか。
  「俺の家に来ますか?汚いですけど」
  「あ、もちろん、そのつもりでした」
  「(怒)」
  「(笑)冗談ですよ、ありがとうございます」
なんだかうまく乗せられたような気がする。
やっぱり俺、この人、いやだな~・・・


2008.01.23. アップ
2008.01.26. 後半アップ
2013.02.16. サルベージ