絶対距離


久しぶりに見るサラダは、なぜか、気付くと、

オレから2メートルくらい離れている。


ソファでくつろいでいると、視線を感じるから、そっちを見ると、

サラダがじっとこっちを見ている。

ほら、きっかり2メートル。

オレだって、家にいてまで警戒はしていない。

サラダがなにやら動いていることは、もちろん、把握出来ているが、

その頭の中の事まではわからない。

もとより女の子の頭の中なんて、詮索する気も無いが、オレが気付くと、

ジワーーっと壁の向こうに消えるのはなぜだ?

 


とある朝のこと。

「サクラ」

オレは、キッチンにいて、なにやら片付けているサクラに声をかけた。

「なあに?」

今、サラダは、アカデミーで勉強中だろう。

「サラダは何歳になった?」

そんなことくらい覚えてないの?と言われるかなと思ったが、

振り向いたサクラは嬉しそうに両手を胸のところで組むと、

「まあ!嬉しい!」

と言った。

「は?どうして嬉しい?」

「だって、今の会話、よくある家族の会話よね」

「・・・・・」

「アナタがそういうこと言ってくれるなんて」

オレは、突っ込みがなかった分ホッとしたが、こうやって、

サクラが手放しで喜んでいる様子は、さすがに心に痛い。

「嬉しいわ!」

「・・・・・」

どうも分が悪い。

オレは咳払いすると、この際、ストレートに聞いてしまうことにした。

「なぜか、サラダはいつもオレから2メートル離れているんだが」

「それは、父と娘の絶対距離でしょ」

即答・・・・

つまり、サラダは生意気になっていて、

父親のオレと一定の距離を保っている、と言うことか?

オレが唖然として、次に立ち上がると、すぐさま、サクラが言葉を続けた。

「ナルトに相談しても無駄だと思うな」

「!!!」

オレは、ビクッとして動きを止める。

なぜ、わかった?

オレが、あのウスラトンカチに話を聞いてもらおうとして立ち上がったことが!

「サクラ・・・なんで・・・」

サクラは楽しそうにニッコリ笑って言った。

「何年あなたの奥さんしてると思ってるの?」

女は凄い・・・・忍術も使わず、これだ。

「それにね、どっちにしろ、ダメなのよ」

「な、なぜだ?」

「ナルトのトコなんてゼロ距離だもの、ヒマワリちゃん」

「!!」

このときほど、自分の中に広がる得体の知れない激情を意識したことはない。

オレは、ソファに座り直すと、フンと笑った。

「じ、じゃあ、あれだ、オレが、その、先輩ということだな」

「ふふふっ。2メートルの先輩!!」

サクラが笑ってそう言った。


【終わり】
【H31/03/15 pixiv up】
【R01/06/18 LR up