雨の朝 4




後悔している俺の耳に、忍び込む雷雨の音は、先生の呼吸と同じリズムだ。
先生が息をしている、という当たり前にも、俺の芯はなぜかしびれる。
心音が聞こえる。

でも、どうしていいかわからない。

女の子を抱くみたいに抱いていいんだろうか・・・・
好きだよ、可愛いよ、という、女の子相手ならば平気なセリフ・・・
先生に言ってもいいんだろうか・・・

クソ、どうしていいかわからない。

でも、俺はいつの間にか膨らんだ股間を、先生の腰に押し付けていた。
先生が困ったように苦笑して、
  「若いなぁ、ナルト」
と言った。
そのままフェイドアウトしたらどうしようと思ったが、先生は続けて
  「入れるのは、無しな?」
と言った。
俺は絶句する。
もちろん先生とそれなりのことをする気満々だったが、具体的にそんなことを言われると目の前にいるのがカカシ先生本人なのか自信がなくなる。
抱いてるのは写輪眼のカカシで・・・・俺の先生で・・・・
  「せんせ・・・」
  「ん?」
  「ホントにカカシ先生?」
  「は?」
先生は、自分の顔を手でなでる。
  「ずっと顔隠してたせいで実感ないか?でも、お前なら匂いでわかりそうなもんだけどな」
  「先生だってわかるから、わかんないんだってば!!」
  「(笑)ナルトの言うことは難しいな」
灰色の空気の中で、先生は笑った。
俺はその響きに身体を引き裂かれそうだった。

鈍い色をした空。
変質していく。
塩辛い血液に浸かったクナイみたい。
ボロボロに錆びて、朽ちる。
変質していく。
  「先生」
呼びかけに、空気だけで、先生が俺を促す。
どうも出来なかった。
俺は止められなかったんだ。
雨が降る。
雨が降る。
言い訳も錆びる。
俺のこれからの人生は、この土砂降りの雨の記憶に振り回されるだろう。
だって、俺は今日を忘れない・・・・
  「どうなってもいいんだ・・・」
そして、嘘。
  「なにが?」
  「全部」
  「ナルト・・・」
  「俺は自由だから」
  「ナルト」
  「どうなってもいいよ、先生以外」
先生の目は笑っていた。
どうして、大人は、嘘も受け入れてしまえる?
そして先生は言った。
  「俺も」
と。
その言葉に、その一言に、俺がどんなに興奮させられたか。
俺は、抱いた腕を緩めて、先生を見た。
雷が、どんよりした室内を切り裂くように照らし、俺に馬鹿な告白をしちまった、情けない大人を美しく照らす。
その、整った唇が言う。
  「俺も、お前以外、どうなってもいい」
と。
雨が、雷鳴を伴う激しい雨だけが、俺たちの寂しい嘘を許して、先生の唇が俺のそれに押し付けられた。
興奮に息が荒くなり、キスの合間に、修行中にだってしないような過呼吸になる。
俺は、先生の身体をシーツの上に押し倒した。
互いに身体が大きくて力があるから、女の子を押し倒すようなわけには行かなかったが。
  「ナルトっ」
先生が小さく言う。
俺はかまわず、先生のパジャマを裂くように肌蹴させた。
先生の身体が強張るのがわかる。
肌蹴た胸の、色の薄い乳首を舐め上げる。
  「・・っ」
先生が俺の肩を押し返した。
俺は、もっと強い力で、先生を押し返す。
シーツが縒れて、キュッと悲鳴を上げる。
  「好きだ」
今度は逃げる先生の唇を追って、雷と共に今は許される本当を吐き出した。
  「好きだ」
逃げるから、俺は先生の唇に噛み付く。
  「いっ・・」
痛がっても離さない。
優しくしたかった。
優しく、優しく、そっと大事に愛したいのに。



雨の勢いは一向に弱まらず、雷も、もう数えられないくらい鳴っている。
下半身に体重をかけて、本気で先生を押さえ込む。
雷に照らされて、唇に血を滲ませた先生は、やっと俺に突っ張る両腕を下ろした。
  「どうして抵抗するんだってばよ?」
青白い閃光が、先生を一瞬包む。
  「抵抗してる?俺?」
  「だからかじっちゃった。ごめん」
  「ああ・・」
先生が血を舐める。強烈な磁力をリアルに感じて、俺はその舌を吸った。
先生の眉が苦しげに歪む。
そのまま手を下に伸ばした。
まだ柔らかいそれに、ちょっと傷つく。
  「やっぱ、俺じゃだめ?」
  「違うっ・・」
否定する先生に言い返そうとしたら、いきなり喉元に肘を突きつけられた。
そのまま先生がしたいと思えば、俺の喉をつぶせる。
  「すまん。でもお前が聞いてくれないから」
ふっと、耳にザアザア降りの雨の音が戻った。
  「もっと俺のことをわかれよ」
  「カカシ先生・・・」
  「察しろよ」
駄々をこねるように口を尖らせる先生に、俺はびっくりして黙る。
俺の目を挑むように見つめていた先生は、視線を落とす。
うつむく先生の髪から、さっき使ったシャンプーの香りがしていることにようやく気づく。
  「・・・恥ずかしいだけだ・・・」
そのセリフは物凄い殺傷力を持って、俺に絡みつく。
俺はいきなり上体を起こすと、先生を見下ろした。
オレンジのパジャマのズボンをずり下ろす。
もう、先生は抵抗しなかった。
両腕を交差させて、顔を覆ったまま。
下着も一緒に降りて、先生を痛がらせた。
風呂ではチラとしか見えなかった、先生の生殖器。
それは萎えてて、かわいそうだった。
そんなに、緊張してんの?
そんなに、恥ずかしいんだ、俺との・・・




2008.02.10.