歩く
『あの肘につけるサポーター・・・・』
カカシは、キンと冷えた空気の中、足下を見ながら歩く。
あれが欲しいな。
そう思って、あわてて打ち消す。
欲しいだなんて、そんな子供みたいな事・・・・
踏みしめる雪は、硬く締まり、キュッという高い音を立てる。
息が白く、視界に溶ける。
気づいたら、冬になっていて、
「もう三ヶ月・・・」
も、経っていた。
思い出の中の誕生日は、いつもサプライズだった。
両親は二人とも、全然気づかないような顔をして。
不安になる俺に、でも、母さんがそっと、
「15日は、早く帰って来なさいね」
と、ウインクして笑ってくれた・・・・
また雪が鳴る。
いろんな事が過ぎていって、
生きてる俺は、歩くしかなくて、どんな性能のいいサポーターを支給されても、
隣のヤツが持っていた、母親のお守りつきの素朴なものが、
俺は、うらやましくて。
でも、もう、俺は14歳だから、そんなこと、思っちゃいけない・・・・・
カカシは目をつぶる。
◇
そうやって、いつも思い出すのは、たった一人になった年の冬。
あの日と同じ、雪の道を、同じ音をさせて歩く。
家族もいなくなって、そのあと友も、師も、なくして、
激務の毎日に、自分の誕生日も忘れて、
「あ・・・もうすぐクリスマスか」
と嘆息した、あの14歳の冬。
滅茶苦茶になった里のために、みんなが必死で、もちろん俺もそうだった。
でも、ふっと、9月15日を、忘れたようにやり過ごしたことに気づいたときの、
あの胸がギュッとなるような喪失感は・・・
「忘れられない・・・・」
どんなにお前達が笑っても、どんなに俺を祝福してくれても、俺の視線は、もう、先を見ない。
ねえ、ナルト。
お前がどんなに憤っても、俺をどんなに責めようと、俺はもう、新しい時間を歩けないし・・・・
歩く気もない。
だから必死で、お前に言うんだ。
「頼む」
って。
ボロボロといろんなものを指の間から取りこぼして、それでも、俺は、今まで歩いてきた。
そうだ。
俺は、
時間を、
お前に、渡せたろ?
俺はやっと・・・・・
「どこ行くんです?」
思考をぶった切る無遠慮な声に、カカシは振り返りもせず、憮然と言い放った。
「お前のいないトコ」
後輩の溜め息も聞かず、さらに進むスピードを上げる。
「ちょっと、先輩!!」
「お前が近づけば近づくほど、俺は遠くへ遠くへ、行くだけだけど?」
「そんな憎らしいこと言ってると、木分身で囲みますよ?」
「ふん。囲めよ。どうせ上と下は空いてるだろうからな」
「ソコを忘れるような僕だと思ってるんですね?全方位、囲みますよ。外から見たら球体です」
さすがに想像すると気持ち悪くて、俺は笑ってしまう。
振り返ると、テンゾウも笑っていた。
白い近景と灰色の遠景の中、黒い髪と、赤く染まった子供のような鼻と頬に、俺は何故かホッとする。
「どうして俺をシリアスに放っておいてくれないんだよ?」
「それが似合うと思っている貴方の自己像を破壊するためです」
「・・・・・似合わないの?俺?」
声には出さないが、テンゾウはしっかり頷いた。
なんか・・・調子が狂う。
「何を考えているのかはわかりませんが、想像はつきます」
「・・・・・・・」
「今年もちゃんと、誕生日、しましたよね?」
「・・・・・した」
「もう、僕、身を挺してお祝いしましたよね?」
確かに。
「それに、これからクリスマスです。7班でやるのと、教員の皆さんでやるのと、
2つのパーティー呼ばれてるでしょ?」
「・・・・・・・・うん」
「人気者の先輩、幸せですよね?すっごくハッピー!!」
「・・・・・変な言い方」
「もちろん、その後は、僕と過ごすでしょ?」
「・・・・・・・」
「この、世界一の幸せ者め!!」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
なんか、どうでもよくなってきた。
やっぱり、俺には、こいつが必要・・・・みたいだな。
テンゾウが、俺に並ぶ。
歩く俺の足下で、やっぱりキュッと雪は鳴くけど、さっきとは違うそのリズムに、
今は、テンゾウの伴奏がのっている。
「もう、仕込み筆はやめろよ?」
俺が念を押すように言うと、テンゾウも、
「映ってるの知ってるくせに、サービスショットなんていらないですからね!!」
と言い返してきた・・・・
◇
道を下りる先の里の雪景色に、カラフルな電飾が灯り始め、
「きれいですね」
という感動が籠もったテンゾウの声に、俺は大きく頷く。
チラチラと、雪が舞い始め、今は、ちょっと先を見ることができる視線に、
本当は俺が一番、感動していた・・・・・・・・
2009.09.11
2009年カカシ誕生日企画。
もう、秋の景色を書き尽くしたので、一気に冬景色です。