歩く




  『あの肘につけるサポーター・・・・』

カカシは、キンと冷えた空気の中、足下を見ながら歩く。

あれが欲しいな。

そう思って、あわてて打ち消す。

欲しいだなんて、そんな子供みたいな事・・・・

踏みしめる雪は、硬く締まり、キュッという高い音を立てる。

息が白く、視界に溶ける。

気づいたら、冬になっていて、

  「もう三ヶ月・・・」

も、経っていた。

思い出の中の誕生日は、いつもサプライズだった。

両親は二人とも、全然気づかないような顔をして。

不安になる俺に、でも、母さんがそっと、

  「15日は、早く帰って来なさいね」

と、ウインクして笑ってくれた・・・・


また雪が鳴る。


いろんな事が過ぎていって、

生きてる俺は、歩くしかなくて、どんな性能のいいサポーターを支給されても、

隣のヤツが持っていた、母親のお守りつきの素朴なものが、

俺は、うらやましくて。

でも、もう、俺は14歳だから、そんなこと、思っちゃいけない・・・・・

カカシは目をつぶる。





そうやって、いつも思い出すのは、たった一人になった年の冬。

あの日と同じ、雪の道を、同じ音をさせて歩く。

家族もいなくなって、そのあと友も、師も、なくして、

激務の毎日に、自分の誕生日も忘れて、

  「あ・・・もうすぐクリスマスか」

と嘆息した、あの14歳の冬。

滅茶苦茶になった里のために、みんなが必死で、もちろん俺もそうだった。

でも、ふっと、9月15日を、忘れたようにやり過ごしたことに気づいたときの、

あの胸がギュッとなるような喪失感は・・・

  「忘れられない・・・・」

どんなにお前達が笑っても、どんなに俺を祝福してくれても、俺の視線は、もう、先を見ない。

ねえ、ナルト。

お前がどんなに憤っても、俺をどんなに責めようと、俺はもう、新しい時間を歩けないし・・・・


歩く気もない。


だから必死で、お前に言うんだ。

  「頼む」

って。

ボロボロといろんなものを指の間から取りこぼして、それでも、俺は、今まで歩いてきた。

そうだ。

俺は、

時間を、

お前に、渡せたろ?

俺はやっと・・・・・





  「どこ行くんです?」

思考をぶった切る無遠慮な声に、カカシは振り返りもせず、憮然と言い放った。

  「お前のいないトコ」

後輩の溜め息も聞かず、さらに進むスピードを上げる。

  「ちょっと、先輩!!」

  「お前が近づけば近づくほど、俺は遠くへ遠くへ、行くだけだけど?」

  「そんな憎らしいこと言ってると、木分身で囲みますよ?」

  「ふん。囲めよ。どうせ上と下は空いてるだろうからな」

  「ソコを忘れるような僕だと思ってるんですね?全方位、囲みますよ。外から見たら球体です」

さすがに想像すると気持ち悪くて、俺は笑ってしまう。

振り返ると、テンゾウも笑っていた。

白い近景と灰色の遠景の中、黒い髪と、赤く染まった子供のような鼻と頬に、俺は何故かホッとする。

  「どうして俺をシリアスに放っておいてくれないんだよ?」

  「それが似合うと思っている貴方の自己像を破壊するためです」

  「・・・・・似合わないの?俺?」

声には出さないが、テンゾウはしっかり頷いた。

なんか・・・調子が狂う。

  「何を考えているのかはわかりませんが、想像はつきます」

  「・・・・・・・」

  「今年もちゃんと、誕生日、しましたよね?」

  「・・・・・した」

  「もう、僕、身を挺してお祝いしましたよね?」

確かに。

  「それに、これからクリスマスです。7班でやるのと、教員の皆さんでやるのと、

   2つのパーティー呼ばれてるでしょ?」

  「・・・・・・・・うん」

  「人気者の先輩、幸せですよね?すっごくハッピー!!」

  「・・・・・変な言い方」

  「もちろん、その後は、僕と過ごすでしょ?」

  「・・・・・・・」

  「この、世界一の幸せ者め!!」

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

なんか、どうでもよくなってきた。

やっぱり、俺には、こいつが必要・・・・みたいだな。

テンゾウが、俺に並ぶ。

歩く俺の足下で、やっぱりキュッと雪は鳴くけど、さっきとは違うそのリズムに、

今は、テンゾウの伴奏がのっている。

  「もう、仕込み筆はやめろよ?」

俺が念を押すように言うと、テンゾウも、

  「映ってるの知ってるくせに、サービスショットなんていらないですからね!!」

と言い返してきた・・・・





道を下りる先の里の雪景色に、カラフルな電飾が灯り始め、

  「きれいですね」

という感動が籠もったテンゾウの声に、俺は大きく頷く。

チラチラと、雪が舞い始め、今は、ちょっと先を見ることができる視線に、

本当は俺が一番、感動していた・・・・・・・・




2009.09.11

2009年カカシ誕生日企画。
もう、秋の景色を書き尽くしたので、一気に冬景色です。