あと1センチだけ 4




残酷な事をしながら、それでも、自分の選択が相手を傷つけないように配慮するというおかしな、でも人にありがちな感覚は、このときの俺にもあった。
自分の中に溢れる激情に流されて、それを先生に転嫁して自分を解放し、同時に、先生の立場を気遣っている。
呼吸のために離した唇は互いに濡れて、獰猛な食欲に似た衝動が内側に満ちた。

  「好きだ」

また、キスをして、唇が離れる瞬間に、俺はもう、臆面もなく言う。
そしてすぐにキスをする。
じゃないと、諦めが悪いこの人は、俺の「本当」を違う何かにすり替えようと画策するから。
布団に押し倒した先生を上から見る。
  「キスって・・・・いいね」
多分、俺は相当の間抜け面だったろう。
でも、こんな気持ち、抑えられる自信もなかったし、抑えることにどういう意味があるのかもわからなかった。
女の子にする好きだよという可愛いキスがもたらす電気のような刺激も、俺は知っている。
でも、この馬鹿な大人とする、心が引き絞られるようなキスは、そんな感傷を遥かに超えていて、「いいね」と言った俺の感想は、最高級の肯定だった。
  「いままでのなんて、ホントのセックスじゃない」
このキスを抜いた結合に
ああ
本当にどんな意味があったんだろう・・・・

先生が俺を見る。
越えてしまえば、それはただの「出来事」にすぎない。
先生もそう思っているんだろうか?
それとも、まだ・・・・迷ってる?

先生は何も言わない。
それなのに、この人の困惑が、もの凄く雄弁に俺の中に流れ込む。
空気は振動せず、まったく何も伝えていないのに、俺と先生は、激しい音がしそうな混乱の中にいた。
  「俺は里に命じられるまま・・・・」
混乱はうるさすぎて、先生が喋っていることに、すぐには気づけなかった。
  「いや、火影様に、お前を見てやれって言われただけだ」
また胸が抉られる予兆がしたが、先生の話には続きがあった。

  「だから俺は寝たよ」

知ってるよ・・・・
俺は、時間が質量を持ってこちらに迫るのを待ち構えるように、身体をこわばらせる。
と、先生の頬が僅かに緩むのを見た。
錯覚かも知れないその一瞬は、続く先生の言葉で錯覚じゃないことを知る。

  「お前とじゃない。お前の中の九尾と」

先生の、言い訳のような、そう、俺の本当と先生の本当に対する言い訳のようなセリフを無視して、俺はまたキスをしようとして、先生の何かの手技で俺のその優しい動きは一瞬止まる。
先生は、動きを止めた俺の両肩を両手で掴んだ。
ぐいっと引き離されて、俺は、じっと先生を見下ろす。

誓って言う。

このときの俺は、俺以外の何者でもなく、先生によって強引に引き離された唇がもどかしさに歪んだのも、それは俺の思いからだったと。
先生に向けられた身体の奥底の衝動も、それは本当に「俺」のものだったと。
だから、先生を見下ろす俺の目は、すべてを先生に吐露していただろう。

それなのに、この人は、俺と別れようとする。
互いに、本当を偽り続けることに疲れて、
でも、それを越えて触れ合おうとする俺を拒否し、
何も無かったように、別れようと言うのだ。

俺の為に、と。
俺の為にと、俺をこんなに傷つけて。

  「俺と」

残酷すぎる先生は、まだ、俺を傷つけ足りない。
でも、先生の表情からは、何も読めなくて、俺は何か術でもかけられたのかと思った。
  「俺とまともにやり合ったら」
  「・・・え?」
  「負けるのはお前だよ、ナルト」
負けるの意味がわからないのに、何故か俺は理解していた。先生は嘘を言っていないと。
  「負けても」
  「ナルト・・」
  「負けてもいいと俺が言ったら?」
  「・・・・・」
  「先生!?」
  「・・・・・終わらせる」
  「え?」
  「やっぱり終わらせるだけだよ」
俺の身体に力が籠もる。先生の、俺を掴む手にも力が入った。
  「ナルト。その形は違っても、終わりには違いない」
先生は、当たり前のことを言って、俺を諫める。
それは、うんざりするほど見てきた「大人のずるさ」そのものだったから、俺もガキの率直さで言い返す。
  「俺のスケールを測り間違ってるよ」
  「なに?」
  「無理もないか。もう、そろそろ俺の身体は、先生の両腕に余るもんな」
  「お前・・」
確実に相手のプライドを削って、普通なら殴り合いになりそうな事を、俺はガキの無邪気さに紛らせて言う。
とっくに硬くなっていた性器を、先生の足に押しつけて揺らす。
  「先生」
  「・・・・」
  「先生を抱いていたのは」
  「・・・・」
  「最初から、今この瞬間までずっと」
俺の肩を掴む先生の手が、ギュッとさらに強く握られて、そんなことで、俺の言葉を止められると思っているかのように、クレッシェンドする。
  「ナルト・・・」
  「そう、俺だよ」
  「ああ・・」
先生の喉から漏れた声が、その諦めた色が、俺の鼓膜にセクシャルに響いて、俺も呻きながら言う。
  「知ってたくせに」
  「貴様・・・」
  「知ってたくせに」
  「やめろ」
でも、俺はやめない。
股間を先生に押しつけて、脱ぎかけていた先生の下半身の着衣の下に手を伸ばした。




2011.01.29/2013.01.25