妄想限界 1



  「ななな・・・・なんだ、コレっ!!!」

さっそくびっくりした俺は、息を整えると、改めて教室を見渡した。
殺風景な、独特の懐かしい匂い・・・いや、臭いがこもっているはずの教室が、溢れんばかりの綺麗な花で埋め尽くされ、脳髄までとろけそうな濃い花の香りで満ちている。
  「うっ・・・な、なんなんだ・・・・」
花の香りにむせて、俺が呻きながら後ずさり教室から出かかると、花々の奥からげんなりした怒号が飛んだ。
  「ナルトっ!!逃げるの、アンタ!!」
・・・・へ?
なに?
サクラちゃん?
どこにいるんだ?
  「サクラちゃん?・・・・」
俺が、花に埋もれた教室の奥に声をかけると、その一角がゴソリと動いて、サクラちゃんのかわいいピンクの髪が現れた。
  「サクラちゃん、いったいコレは・・・・?」
  「ま、当然の反応よね。やることはいつもの会議なんだけどね」
サクラちゃんは花をかき分けてこちらに来る。
い、いつもの・・・・・・・・?
いつものって・・・・・なに?
はっ・・・・
も、もしかして・・・・・・・これって・・・・・?
  「ちょっと待ってよ。俺に理解のための時間をくれ」
  「この状態を見てよ!!そんな時間ないの、わかんないの?!」
ああ・・・・この子はいつもこうですよ。オンリーワンじゃなくてナンバーワン。
  「・・・いや、あの、今日は任務の打ち合わせだろ?」
  「そうよ。なのに、勝手に盛り上がっちゃってたみたいで」
はあ?
何がナニ?
ナニがどう?
と、教室の中央を埋めていた花が、ワラワラと動いて、土遁から現れるように、ヤマト隊長が現れた。
  「うわっ・・・・びっくりした・・・・」
  「ナルト、これはだね、」
おっと、いきなりすぎるってば。挨拶もまだですが。
俺の動揺をよそに、隊長は上体を起こして、こっちを見た。
  「ボ・・・・ボクの心象風景・・・・・」
・・・・・・・キタよ、いきなり。
どうして、新7班って、段取りがねえんだよ・・・・・・
ってか、この花が、ヤマト隊長の心象風景だって?
どう見たって、リアルだろう。幻術には見えねぇぞ?
  「が、現実化したものだ」
サクサクつなげて言えよ!!
  「でも、現実化って・・・隊長・・・・」
しかし、ヤマト隊長は、俺のセリフに応えられないくらい疲れ切っていて、再び花の上にぶっ倒れて、埋もれている。
かわりに、サクラちゃんが、俺に耳打ちした。
  「・・・・木遁よ」
  「ええっ?!!木遁??!!」
  「そうらしいのよ」
サクラちゃんはあきれたように首を振る。
  「なんかわかんないけど、私が来たら、もうこうなっていたの」
  「・・・・・そ・・そうなんだ・・・・」
  「でさ、ヤマト隊長があんなふうに鼻血出して倒れてるから」
鼻血?・・・・・・あ、ホントだ・・・・・
  「私も慌てちゃって。そしたら、『ボクの木遁だから』って言うのよ」
  「でも、木遁にこんな術があるなんて、知らなかったよ。同じ植物とはいえ、これ、木じゃなく、草に咲く花も混じってるようだし」
  「もちろん、私も驚いたよ。そしたら・・・・・・ね、隊長」
サクラちゃんが、鼻血の隊長に呼びかける。
  「ああ、これは、ボクのカカシ先輩に対する心の高ぶりが具現化したんだ・・・・」
ちょっと待て!!
いきなりカカシ先生ってなんだよ?!もう、対象は決定事項かよ?!
  「心の高ぶりとかカッコつけてるけど、つまりはしょぼい妄想よね~」
サクラちゃんが肩をすくめて俺を見る。
と、サクラちゃんのセリフに興奮した様子で、隊長が強い口調で言った。
  「サクラ、君がそんなセリフを吐くとはね。妄想の力を一番理解しているのは君だと思ってたけど、ボクの買いかぶりだったのかな?」
  「あら、それは買いかぶりなんかじゃない。隊長の認識は正しいです」
  「じゃあ、なんで・・・・・」
ヤマト隊長が、わずかに上体を起こしてこっちを見た。
俺もサクラちゃんを見る。
あ・・・・・ヤヴァイ・・・・・その顔・・・・・・
もちろん、俺が耳を塞ぐ時間などない。

(以下サクラまくし立てる)
確かにっ!!
地味で飾りっ気のない実用本位の木遁忍術を、綺麗な花々の乱れ咲きにまで一気に押し上げた、隊長の妄想力は凄いわ。さすが、ヤマト隊長、あっぱれです。でも、いくらなんでも『花』はないんじゃないかしら。子供の妄想じゃないんだっつーの。執着の極みが花が乱れるような愛の表現だなんて・・・・寒いですよね(笑)。どんな妄想をしたんですか、隊長!!それは「花」に集約されるような綺麗なものなの?いいえ、違いますよね(冷笑)。もっと、えげつない、人権問題が発生するようなヤツですよね?私は、その自己矛盾を言ってるんですよ!!


ひえ~~・・・・・っ・・・・・・人権問題って・・・・
のっけから、もの凄い高レベルな展開だよ。
っつーか、俺は、まだ、任務の打ち合わせがどうしてこんな事になっているかも、理解してないんだよ!!それが、なんだよ、このもの凄い壊れた展開はっ!!
  「地味・・・・な木遁・・・・」
そして、隊長はそこに引っかかっている。
もう、引っかかるとこはそこじゃない、ってか、それ、説明の一番最初じゃないか!!
中身のほうを検討してくださいよ。
  「ところで、そろそろちゃんと教えてくれよ、サクラちゃん」
  「なにを?」
  「俺は任務の打ち合わせで来たんだってばよ?」
  「そうよ」
  「そうよって・・・・・でも、なんでこんな・・・」
  「仕方ないでしょ、また競いあってるんだから」
はぁ?
競い合うってなんだよ。
分数で引っかかってる俺に、小数点を加えるような事はやめてくれってばよ~~
  「私だって任務の打ち合わせに来たのよ。それが、もうこうなってしまった以上、例の会議を しなくちゃ収まらないでしょ?!」
俺は真面目な忍者なのに、どうして、こう、軌道がずれていくんだよ。
サスケぇ~~、俺はお前が恋しいよ。
なんだかんだ言って、俺を助けてくれるもんな。
俺のことわかってくれてるもんな。
  「サスケ・・・・」
  「呼んだか?ウスラトンカチ」
・・・・・・・・
・・・・・・・・
  「いいい、いたのか、お前っ!!」
  「呼んどいてなにぬかしやがる」
教壇の方から、花々を割って出てきたのはサスケだった。
  「くそっ、わかったぞ。お前か!!お前がヤマト隊長と・・・・」
  「俺以外に誰がいるんだよ」
ああ、ホッとするような、これから苦痛がはじまる前兆のような・・・・・変な気持ち。
  「まあ、こんな馬鹿な花なんか散らしやがって、相手にならねぇがな」
サスケは吐き捨てるように言うと、大仰に肩に乗った花びらを払い落とした。
はあ・・・・・いい男だよ、全く。
花を背負っても絵になる。しかも、一族の悲劇をも背負ってるとくれば、もう、これ以上の装飾はいらねぇだろう。
  「サスケ、どうして、お前がここにいるんだよ?」
  「くだらねえ質問を繰り返すな。前の会議の時も言ったろう」
  「新しい読者様を置いていくな」
  「いるのか?」
  「・・・・・・そこは突っ込むな」
  「まあ、いい。俺にとってこの会議への参加は命題なんだ。だから、お前らの馬鹿なチャクラが騒げば反応するような術を張ってるんだ・・・・・って前の会議でも言ったがな」
命題って・・・・・・
断言するよ、サスケ。いま、お前がもっともサクラちゃんの位置に近いってな。
  「んじゃ、本体?影分身?」
  「本体に決まってんだろ!!うっせーな」(←微妙に照)
  「・・・・・そんなことより、サスケ、コミックス読んだぞ」
  「ん?それがどうした?」
  「どうしたって・・・・・いいのか、こんなトコにいて」
  「いたらダメなのか?」
  「原作的にはアウトだな・・・・って、そんな事じゃない!!木ノ葉はお前の敵なんだろ?」
  「ノリ突っ込みが冴えてるな。でも、俺を見くびるなよ、ナルト!!」
え?
  「俺の熱い思いを見くびるな」
サスケ・・・・・
サスケの黒い瞳が、俺を真正面から見据えている。
まさか、自分の宿命を超えて、俺との友情は運命だって言うのか?
それほどまでに、熱い奴だったのか、サスケ!!
  「そんなことで裏切るほど、俺のカカシへの愛はちっぽけなもんじゃねえんだ」
・・・・そっちね。
しかも、一族の悲劇が、「そんなこと」で片づいちまったぜ、おい。
  「木ノ葉にはカカシも含まれるんだ。俺だって悩んださ」
カカシ先生ねえ。
っていうか、木ノ葉にはすべて含まれてんだけどな。俺とか、サクラちゃんとかさ。
  「悩んで、悩んで、悩み抜いたぜ。木ノ葉と敵対しても、カカシだけはなぁ・・・・」
ここに来て数分しか経ってないのに、二人の人間がカカシ先生の名を、自発発言。
マジ、罪な人だよな。
  「・・・・そうか。で、悩み抜いてどうした?」
  「保留にした」
ぶっ!!    ← [吹き出した音]
・・・・・あ、相変わらずだな、サスケ。いい味だしてるよ。
  「とにかく目の前の事を片付けなくちゃな」
  「目の前のこと?」
  「ああ」
サスケは懐から見覚えのある冊子を取り出した。
ぶっ!!!!
も・・・妄想自慢っ・・・・・・
しかも、ものすごくヨレヨレじゃん、それ!!何度読み返してるんだよ!!恥ずかしいぞ!!
  「ヤマトだかなんだか知らんが、こんな馬鹿げた宣戦布告を放っておけるほど、俺はできた人間じゃないんでね」
ああ、最後の『闇の向こう』ね。慌てて編集したもんだから、隊長が書いたのにサスケ視点になっているという、意味不明な1本になってしまった失敗作だ。
  「それはこっちのセリフだよ」
やっと回復したらしいヤマト隊長が、サスケをにらんで起き上がった。
鼻腔にたまっていたらしい鼻血が、また新たな跡をつけて流れ落ちる。
と、サクラちゃんが、俺にささやいた。
  「見てよ、うけるぅ~。バカボンのパパの髭みたいになってる(笑)」
ぶっ!!
た、確かに・・・・・
でも、いつもの木遁忍術を瞬時にここまでの術に変化させたんだ。
チャクラが身体中を激流して、鼻血くらい出るわな。
  「だ、大丈夫だってば?ヤマト隊長」
  「うん、大丈夫だ。最近抜いてなかったからかな~」
そっちの鼻血かよっ!!
いきなりな下品攻撃に、俺がサクラちゃんの顔色をうかがう。
妄想キングな彼女とはいえ、こんな生々しい話はどうかと思ったからだ。
そんな心配はいらないってのは、わかってるけどさ(苦笑)。
  「まあ、隊長、いつも恋人と一緒なのに」
  「「「え?」」」
三人同時にサクラちゃんを見た。
俺やサスケが見るのはまだしも、ヤマト隊長までが「?」の目をしてサクラちゃんを見てる。
と、サクラちゃんがおもむろに隊長の手を指さした。
  「左手」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・さすがだよ。
恋人発言で、カカシ先生が隊長と何かあったんじゃないかと、たぶん深読みしただろうサスケは、ほっと身体の緊張を解いた。
一方隊長は「ボクの癖まで読んでるとはね」と、ナニが癖なのか、赤面して独りごちた。(癖 → 右手じゃなくて左手)
  「・・・気をとりなおして・・・・・・サスケ」
  「なんだよ」
  「ボクだって前回の会議、納得してないんだ」
  「フン」
  「まあ、この花々を見てわかるとおり、今の時点では、勝負はあったようなものだが」
その勝ち負けの判断基準がわからない。
  「ふん。今回は譲ってやるぜ」
え??負けたのか、サスケ!!っていうか、なにが勝ちで、どこが負けなんだ?
  「でもな、サクラがいったとおり、こんなものは『大人の』妄想じゃねぇ」
サスケ、お前が言うとなんだか初々しい・・・・・っていうか、痛々しい。
  「ちゃんとそっちのほうで勝負してもらうぜ」
  「ああ・・・・望むところだ」
・・・・・・・・・・・
はじまっちゃったよ。
いきなりだよ。
『大人の』妄想で勝負だと!!
あのさ、7班の任務は?
話し合いは?
いいの?
こんなんで、いいの、木ノ葉!?・・・・・・と、「鷹」。
  「サイがそろえばいい感じね」
  「や、やばいって!!サクラちゃん!!」
  「なに慌ててんのよ、バカね~。私だってこれ以上の騒動はゴメンよ」
  「でも、もうすぐサイが来るんだぞ、打ち合わせに」
  「大丈夫。さっき鳥を飛ばしたから。打ち合わせは延期ってことにしといたわ」
ふう~・・・さすがだ、サクラちゃん。
ヤマト隊長だけでも持てあましてるってのに(隊長、ゴメン)、サイみたいなクセのある奴まで来ちゃったら、もう・・・・ねえ。
  「対応が早いってばよ」
  「当たり前じゃないの、失敗できないのよ!!」
へ?なにが?
  「またこの議事録、売るんだから」
ぶっ!!
  「ちょっと待って・・・・サクラちゃん。サクラちゃんにとって、妄想ってなんなの?究極のファンタジーじゃなかったの?売るとか、なんかそういうのって・・・・」
ナルトぉ・・・・とサクラちゃんが目を細める。
あ・・・や・・・また・・・来る・・・?

(以下サクラまくし立てる)
ナルト、私は悲しいわよ!!私がそんなに信念のない人間に見える?私が、簡単に生き方を変えるような人間に見えるの?変わってないわ!!私は変わってない。妄想を究極にまで高めようとし、そこに無上の喜びを感じている人間であることにかわりはないの。ただ、今度は、その喜びを皆にわけてあげたいという、次のステップに移ったの!!わかる?すごい事になってきたのよ!!

・・・・・・・・
かの国では、もう、常識だよ。
しかし、信念って・・・・・・・日常生活であんまり使わない言葉だよね。
確かに、凄い事になってきたよ、別の意味で。
こんな本読ませられるなんて、その人の人格に深刻な影響が出るんじゃないのか?
俺の憂鬱をよそに、サスケが叫ぶ。
  「サクラ!!俺から行くぜ」
  「あ、ちょっと、待ってよ。まだ準備が・・・・」
  「ん?サクラ。俺の妄想を聞くのに、心の準備が必要か?」
そう言ってサスケが満足げに頷く。ああ、にやけた表情もかっこいいぜ。
でも違うよ、サスケ、それ、録音の準備だから。
  「よし、ボクの方は、心の準備、できてるぞ」
ぶっ!!
隊長・・・・・・・アンタも、ほんと、いい味出してるよね。
  「さあ、いいわ、サスケくん」
サクラちゃんが、腰に手を当てて、上から目線で俺たちを見回した。
  「第3回 妄想会議をはじめます。今回の陵辱目標は・・・・」
  「「カカシ」先輩」
はあ・・・・・。
あっさり、『陵辱』になってるよ。そこに突っ込みはないわけね。
目標も、二人の声、ユニゾンしてるし。
  「カカシ先生ね、まあ、イイトコじゃない?人気あるしね」
人気ってとこが、イヤらしいよ、サクラちゃん。純粋にカカシ先生に萌えてるこいつらがかわいく見えてくる。
  「ナルトもいいわね?」
  「ああ。俺も、カカシ先生のことは好きだからな」
俺も、ソコは素直に認める。
  「ただ、カカシ先生っていうのは、あなたたちの得意分野よね」
と・・・・得意分野って・・・・・
  「・・・ま、まあ、愛はあるからね、ストックは豊富にある・・・ハズ」>隊長
  「そ、そうだな。常に脳の8割は、カカシの(えっちな)事で占められてるからな」>サスケ
おいおい・・・・・・ストックってなんだよ、ヤマト隊長(泣)。
そしてサスケ、その残りの脳の状態、つまり2割で天照(あまてらす)?
俺、お前に勝てる気しねぇよ・・・・・・
  「それならなおのこと・・・・・・レベル、上げちゃいます!!」
サクラちゃんの楽しくってたまらないって声が、夜の教室に響き渡る。
が、そのだめ押しで、サスケの表情が一気に硬くなる。脳裏に過去の悪夢が巡ってるんだろう。
俺はまだ大風呂敷を広げてないから、若干余裕だ。
  「おい・・・・レベルって・・・・・」
  「読者様の要求は、よりハードになっていくものよ」
  「あ・・・ああ・・・・って・・読者・・?」
俺は、次なる使命を帯びたサクラちゃんを認識しているが、「妄想はファンタジー」で留まっているサスケには、第三者的読者様の意味が、ちゃんとわかっていないようだ。曖昧に返事をしている。
  「今回の会議のテーマは『限界』!!わかった?妄想の、げ・ん・か・い、よ?」
二人の顔を見る。
サスケは青ざめているし、隊長は今まで見たこともないほど、イキイキとしているサクラちゃんにあっけにとられている。
  「さ、まずは、抜忍、サスケくんね♪」
ひぃ・・・・と、サスケの喉が小さく鳴ったのを、俺は聞き逃さなかった。
これほどの男をビビらせるサクラちゃん、やっぱ最強・・・・・