妄想限界 2

オレンジ色の影  【サスケ×カカシ


見上げれば、いつの間にか日は傾いて、透明な光の矢が、真正面から差している。
わずかに眉をしかめて、先に続くうんざりした行程を見つめる。
それは、リアルな道なき道に重なった自身の運命で、うんざりという気分は正確な表現だ。こんな時に思い出すのは、いつも、何気ないほんの瞬間だ。

そう。

ただ、歩いて、歩いて、移動にその時間の大半を費やすような日は、いつの間にか、単調な呼吸と歩くリズムが一緒になって、まだ短い過去のページをめくる作業が頭を占める。

最後に見た、見上げるスッとした立ち姿なんて、ほとんど思い出さない。
道を先に行く背中だったり。
それも、その広い男のそれじゃなくて、逞しくはあるが、その内面を映したような抱きしめたくなる肩と、淡い空の色が交わるラインだったり。
待てと、俺の方にのばして、敵と同時に俺を牽制する腕だったり。
それは太くて逞しい男のそれなのに、その先の指が、ちょっとだけ震えているような、心の奥の切なさを刺激するような様子で俺の胸元に触れている様だったり。

遠ざかれば、忘れられると思っていた。
離れれば、記憶も曖昧になると思っていた。
懐かしい映像も、優しい感触も、時間の風に飛ばされると・・・・信じたかった。
「わかっていたのに」
喉の奥で言って、身体を今来た道に向ける。
夕日の綺麗な俺ンジ色があたりを荘厳な景色にする。
イタチへの憎悪を、時間は消してくれたか?
イタチの苦しみを、時間は和らげてくれたか?
呼吸はうなるように肺を振動させる。
「わかっていたのに」
時間は、明確な思いの前に、忘却なんか許さないと。
行くなと口で言って、アンタは全身で俺を押し出した。
その、瞳の色は俺を縛り付け、唇から吐く言葉は俺を引き留めるけど、でも、それしか自由になる道はな
いと、アンタの綺麗な銀髪が俺を挑発する。

俺の憎しみのベクトルは、若さと滅茶苦茶な性欲を伴って、すべてアンタに向けられた。

怖かった。
アンタを壊しちまいそうで。
大事な、大事な。
最初に心を許せた、唯一の大人。
何があっても守ってくれるんだ、という初めての心からの安心を与えてくれた大人。

同じだと、言ったね。
俺と同じだと。
見ていて辛いくらい、俺と同じだと。
そうだよ。
だから、俺だって辛いんだ。
経験でしかわからないことなんて、限られてる。
「カカシ」
心の底からわき上がる感情に、経験も生きてきた長さも、関係ないんだぜ。
大人は経験で、その感情にいろんな装飾をゴテゴテとつけるだけだろう?
この衝動の激しさは、アンタと同じだ。
離れて、遠くに逃げて、耳を塞いで、流入する刺激をすべて遮断して。
そして、やっと諦める。
「好きだ」
と。

逃げられない。
忘れられない。
結果、まるで予定調和のように、すべては転がって、俺はここにいる。

地平線の遠くに落ちていく太陽が、山の稜線を照らしている。
こんな夕日の中を、何度、アンタの背を見ながら歩いたろう。
それは、永遠に続く夢のようだった。
夢のまま、時間の中に閉じ込めて。
あの日の俺は、どう生きていこうとしたんだろう。
カカシ。

時間は、精巧な抽出機械だったよ。
だから、忘れられない。
日々、新しくなる色のない時間に、濃い色を落とす。
滲む色を戦いで紛らわせて、でも、記憶の抽出は止まらない。
アンタのすべて。
時を経るごとに、アンタから離れるほどに、
「俺の馬鹿な心が」
思い出をかきむしる。

「どうしたんだ、サスケ?」
香燐が横から声をかける。気づくと、太陽は輝線を残して、山の彼方に沈んでいた。
「いや、なんでもない」
そう言って見上げる空はどこまでも高く、頂に、もういくつかの星が見える。
「先を急ぐぞ」
冷えはじめた風が頬を撫でる。僅かに残った俺ンジに、吐く息を白く溶け込ませて、俺はしっかりと足下の道を踏みしめた。


終わり

◇◇◇


「卑怯だぞ、サスケ!!」
うわっ!!
びっくりした。
サスケの話が終わったと思ったら、なんか知らないけどヤマト隊長が怒ってる・・・・
「はあ?なんだってんだよ、ヤマト」
うは・・・・呼び捨てだよ。まあ、サスケにとっちゃ、なんの関係もない相手だしね。でも、サスケにそんな風に言われちゃうと、なんか、隊長まで喰われそうで怖いよ。
サスヤマ?になるのか?
まだ前人未踏のフィールドだな。
「正々堂々、大人の妄想で挑むって言ってたのは君じゃないか!!」
「言ったよ」
「しかも、この会議は『限界』がテーマだよね?」
「重ね重ねご丁寧にうっせーな、わかってるよ!!」
「じゃあ、なんだよ、その乙女チックな妄想・・・・ですらない回想みたいなのは!!」
どっちかっていうと、ヤマト隊長のほうが乙女チックな印象があった俺は、ちょっと吹き出しちゃった。サスケは、俺から見ても「漢」って感じだからナ。もちろんサスケも負けていない。
「アホか、てめぇ!!カッコイイだろが」
「感傷的な回想だよっ!!」
「ばっか!!コレがわかんねーのか!雄々しく耐えてんだよ!!どこが乙女チックだ!!」
「内容がエロくないっ!!」
ぶっ!!
と、吹き出したのは、サスケだった。
そして、そのまま俺の方を、困惑した表情で見つめてきた。
「ナルト・・・・・こいつ、やべえぞ」
ぶっ!!
俺も吹き出しちゃったじゃねえか!!
なんだよ、その助けを求めてるようなまなざしは(笑)。サスケじゃないみたい。
「まあまあ、隊長」
グッドタイミングでサクラちゃんが割ってはいる。
「サクラもそう思うだろう?こんな話の後で、ボクが妄想を披露しちゃったら、なんかボクだけ変態みたいになっちゃうだろ」
ひゃ~~・・・・・なんかもう、何かの純度高すぎです、隊長。自分でも、自分の妄想が変態的って認識してるんだね。
俺は、頼みの綱のサクラちゃんを見る。
ところが、サクラちゃんは例の顔で、隊長をまっすぐに見据えているじゃないですか。
「隊長!!間違ってる!!」
うわっ!!
おいおい勘弁してくれよ、サクラちゃん!!

(以下サクラまくし立てる)
隊長っ!!なに寝ぼけたことをいってるのかしら?!確かに、サスケくんの話は、妄想なんだか寝言なんだかわからない駄作よ!!でも、そんなこと、ヤマト隊長のファンタジーにはなんの関係もないことですよね。何を迷っているんです? いい?!ここに百人の人がいて、皆が皆、恋占いレベルの話をしたとしましょうか。そんなときこそ、思いっきり怒エロな妄想を披露してこそ、真の勝者よ!!空気なんて読まなくていい。それとも、皆の冷笑の前に潰えるような、その程度の情熱なの?ありのままの自分を恥ずかしがっていて、なんの妄想よ!!


「おい、サクラ・・・・・駄作って・・・・」
サスケが呆然として震えている。何度切り捨てられても、サクラちゃんのセリフって、ストレートにブッスリくるよな~。気持ち、わかるぜ、サスケ。
しかも、怒エロだよ、怒エロ。なんか知らないけど、怒ってるよ。
まあ、このレクチャーは、一回目の妄想会議で、サスケがこっぴどくやられたやつだね。その時は、まだ、ヤマト隊長はいなかったからな。
自己の羞恥心をも克服しなけりゃならない、という、ほとんどの現代人には必須の「社会性」というやつとの戦いなんだよね。んで、「公共の場(みんなのまえ)で」本能を勝たせる、という至難の業。
なんという、激しい自己攻撃な、マゾヒスティックな会議だろう。・・・・言ってて怖くなってきた。
「悪かった、サクラ」
あ~あ、隊長も、謝っちゃって。ほとんど、サスケの時の再現だよ。
「人は人、自分は自分だよね。がんばるよ」
「そうよ、隊長!!がんばってください」
ここは小学校か。と、
「おい!!ヤマト!!」
と、サスケが和んだ空気をおもいっくそ破壊する。
「な・・・・なに?」
「お前のために、続きを聞かせてやる」
「え?」
驚いた顔をして、隊長がサスケを見る。俺もつられてサスケを見た。
「貴様もカカシを愛してるんなら、」
サスケが拳を握りしめ、ヤマト隊長ににじり寄る。僅かに上気した頬に、うっすらと汗が乗っていた。くそ~、美形は得だよな。それより何より、サスケ、やっぱその熱さ、最高だぜ。
「俺の愛し方を聞け」
「サスケ・・・・」
「嫉妬で狂いそうになっても、最後まで聞けよ」
なんか、かっこいいんですけど。
こんなくだらない事を全力で必死なサスケに、惚れそうだよ。でも、続き披露の動機は、サクラちゃんの痛い一言なんだろうけどな。
( 痛い一言 → 駄作。 )
「わかった」
隊長も気圧されて、頷く。
「よし」
言うと、サスケは再び語り出した・・・・