風が光る




  「うわっ・・・」

テンゾウは急に動いた空気に、間抜けな声を上げる。
勢いよく開け放たれた窓から、待ちかねた様に外の柔らかい空気が大きな風になって入り込んできた。
開けた当のカカシは、笑い声を風に紛らして、背後のテンゾウを振り返る。
カカシの銀髪の、その一本一本が光を乗せて、テンゾウの目にまぶしい。
  「お前、本当に忍者?(笑)」
カカシの唇が大きく動いて、まだ笑いの余韻を残している。
  「そのことに疑いを持ったことはありません・・・が」
  「が?」
  「今は、なんかこの状況も含めて」
  「はははは・・・・」
  「信じられません」
カカシのむきだしの白い肩が震えて、まだしつこく笑っている。
  「目の前に全裸の先輩だなんて、」
  「なに言ってんだよ、馬鹿(笑)」
  「馬鹿じゃないですよ、とにかく想定外ってことですよ」
  「やっぱり今のお前、忍者から遠いね(笑)」
棒読みのようなテンゾウのセリフに、カカシは煽られてはためく淡い色のカーテンを空気ごと掴む。
窓から差し込む暖色の空気に照らされて、カカシの裸身は光を放っているかのようにその輪郭が滑らかだ。
風で膨らむカーテンを抱くカカシは、逆に春の風に抱かれているようにも見えた。
  「俺ら、想定外が日常だろ」
  「どうでもいいですけど、なんでそんなに堂々としているんですか?」
  「堂々としてる?俺?」
  「はあ・・・・」
全開の窓に向かって、どう見ても股間も、外にオープンだ。
テンゾウの今の仮住まいが、3階にあって、いくら多少の郊外にあるからとは言っても、街路樹の緑から漏れ見える道からは、見上げればばっちり見えてしまうだろう。
カカシはテンゾウに向けていた顔を戻すと、淡い空の水色を見上げた。
象牙色の頬に、カーテンのレースが繊細な影を落としている。
  「この穏やかなシーンにさ、俺の淫猥なモノが、こう、あるわけ」
突然のセリフに、テンゾウは反応できない。
  「・・・・・・」
  「どう、これ?」
  「・・・・・え?どうって・・・」
  「だからさ、この状況。こんな暖かい景色と」
  「・・・・・・」
  「(笑)・・・俺の凶暴なチンポの組み合わせ」
  「・・・変態ですか?」
カカシがカーテンを放す。
自由になったカーテンは、テンゾウの頭上にまで水平になびき、瞬間差し込む太陽光の温度にテンゾウの思考の枠も溶ける。
凶暴なそれじゃなく、柔らかいラインの後ろを見ながら、そこで繋がった昨夜の時間を、なんだか遠くに思い出した。
  「・・・いいかも」
  「だろ?(笑)」
  「へんたい」
  「ふふふ・・・はははっ」
カカシは、心底おかしそうに笑って、テンゾウにその顔を向けた。
テンゾウは息を止める。

何度見ても見飽きない。
何度見ても、見惚れてしまう。

テンゾウは手を伸ばし、カカシではなく、揺らめくカーテンに触れた。
膨らむカーテンに、春の空気の質量を感じ、そのまま放す。
こちらに身体を向けるカカシの姿を見え隠れさせて、その様にまた欲情する。

造形的な美しさだけで、こうも骨抜きになんてならない。
長い任務の間には、絶世の美女や儚げな美少年に誘惑されたこともあった。
任務じゃなくたって、端正な顔のテンゾウには、そんな機会は人並み以上にあった。
でも、

  『この人は違う・・・』

今度のばした手は、直接カカシの性器に触れた。
  「あ、」
微かに漏れた声は、さっと空気に溶ける。
  「マジに変態ですね」
  「テンゾウ」
  「春の景色だけで興奮するなんて」
  「は・・・あ・・・」
テンゾウが、勃っている性器に指を絡めると、カカシは顔を背け声を殺す。
見上げると、最前見たように、カカシの髪が輝いていた。
空の水色はその輝きをも包む込み、その様に身体の芯が疼くような温度を感じた。
  「ボクも感じる」
  「んっ・・・え?」
  「ボクも変態だったみたいです」
周りすべてが、背景となって空気に溶け込み、カカシの身体だけがリアルになる。
こんなにゆったり広がって流れている時間なのに。
テンゾウが立ち上がって、カカシを抱きしめる。

  『明らかな閉鎖系』

二人だけの。


抱きしめてシーツに戻すと、陽光に塵が舞う。
カカシの腕がテンゾウの髪を掴み、
  「ホント、非日常だよね、こんなの」
そう言うと、風に膨らむカーテンを押しのけて、

笑った。



2009.04.19.