鳴門の案山子総受文章サイト
任務は多岐にわたる。
下忍の手始めの任務とはいえ、後々、上忍確実なメンバーで構成された班だ。
俺たちは、実際、甘えの許されない様々なランクと条件の任務を黙々とこなした。
ナルトも、口ではブーたれているが、どんな任務においても、自身のレベルアップに繋がる要素があれば、確実にそれを吸収していた。
それは俺も同じだ。
俺たちがひそかに『Xランク』などと呼んでバカにしている程度の任務にも、実際は、学ぶことは山ほどある。
俺たち下忍だけでも遂行できる任務に、上司である上忍のカカシが加わると、Dランクもたちまち、特Aランクになってしまうからだ。
のほほんとしている外見に似合わず、カカシは厳しい。
与えられた任務に、俺たちが、片手でできると息巻くと、じゃあ手を使わずにやれ、という。
そして、事実、そのような、訓練を兼ねた実践は、俺たちの能力を飛躍的に伸ばした。
そして、今日も、カカシによって厳しくなってしまったDランクの任務を、無事に終えて、俺たちは帰途についた。
ちょっと遠い道のりだが、俺たちの足なら深夜には、里に着くだろう。
なんとなく口数が少なくなって、みな、黙々と歩いていたときだ。
「あーーっと・・・・」
一番後ろからついてきていたカカシが、急に素っ頓狂な声を上げた。
「なに、カカシ先生?」
すぐ近くを歩いていたサクラが、ヌボーッとした長身を見上げた。
「もう、ここは火の国だし、安全圏だ」
「そうだな」
俺が返す。何を言いたいんだ、この男。
「知ってるか、ここは、温泉で有名なんだ」
「知ってるってばよ」
ナルトが一番に反応した。
「来たことあるの?」
サクラが尋ねる。俺も知りたいところだ。ナルトのヤツ、どうして・・・
「イルカ先生に聞いたってばよ」
「「「!・・・ああ・・・」」」
三人が同時に反応した。寂しい独身男の趣味としては、致命的だ。
「で、それがどうかしたのか?」
イルカ先生のことは置いておいて、俺は尋ねる。
本当のところ、俺は、波の国の任務以来、カカシのことが気になって仕方なかった。
まだ若い俺が言うのもおかしいが、しかし、波の国以前の俺は、若い傲慢さに満ちていて、たぶん、カカシと出会っていなければ、早々に死ぬ道をたどっていただろう。
あのイベントを境に、俺はその脳みその構造を完全に変えた。
それほど、カカシの存在は、俺に衝撃を与えたのだ。
それ以来、俺の目は、カカシを追い続けている。
「ん?どうかしたのかって・・・・そりゃ温泉とくれば、ねぇ」
俺のキツイ言い方の質問に、かすかに狼狽した色を見せ、カカシがゴニョゴニョと言う。
その様も、俺は逐一目に焼き付ける。
俺のカカシに向けた日常的な凝視は、周囲にも明らかだったらしく、以前ナルトに『お前、抜け駆けするなってばよ』と言われた時はかなり動揺した。
『ぬ、抜け駆け?なに言ってんだ、貴様』
『俺の目は誤魔化されないってばよ。お前、いつもカカシ先生のこと、見てるってばよ』
『!・・・』
『カカシ先生から、なにか技を盗もうとしてるんだろ』
『は・・・?』
『俺だって負けねぇからなっ!』
会話としては、そういう流れだったのだが、ナルトのセリフは、俺に別な面を示唆した。
俺は、上忍としてのカカシに執着していて、だから、ナルトの言っていることは、正しかった。
それなのに、いきなり「抜け駆け」と言われたときに、ドキンと打った鼓動に、俺は、俺自身の中に別な感情の存在を疑ってしまったのだ。
まさか・・・・・・
しかし、憧れが、別なものに変化しかかっているのを認めないわけにはいかなかった。
だって、明らかに俺は・・・・
「そりゃ温泉とくれば・・・・なんなんだ?」
随分と差がある身長を見上げる。自分の感情を処理できなくて、ついつい、カカシにはきつい口調になってしまう。
「俺くらい年をとれば、お前にもわかるよ」
ギロリと見上げる俺から目をそらしながら、カカシが言う。
「俺、若いから、ラーメンのほうがいい!」
ナルトが言う。どうせまた、あの、寂しい独身男が待っているのだろう。
「先生、私も今日は帰らないと・・・」
「あ、いや、別に俺は君たちを年寄りにつきあわせようとは思ってないよ」
へっぴり腰で、カカシがあわてて言い訳をする。
「俺はいいぜ」
「は?」
俺の返事に、一番驚いたのはカカシだった。
そらした目を、また俺の上に戻す。
ナルトもサクラも、全然興味ないといった様子で、また道を歩き始めていた。
「じゃあ、先生、おやすみなさい」
ちょうど、そこは温泉街へ行く道と、里への道との分岐だった。
「サスケぇ・・・・お前も帰っていいんだよ」
たぶんそれは、俺がカカシを気遣って、自分の意思に反したことを言っていると思ったからのセリフなんだろうが、ヘンな気遣いはイライラもする。
「俺が一緒じゃ困るのか?」
ギロリ。
「え?いやいや、そんなことないよ」
「じゃ、いいじゃん。じゃあな、ナルト!サクラ!」
俺が手を上げると、ナルトも手を上げた。俺たちが別れの合図を交わしている様子を、カカシは黙って見ていた。
「行こうぜ、カカシ」
カカシは黙ったまま、俺と並んで歩き始めた。
もう、高く上っている月が、二人の影を、前の道に色濃く落とす。
遠くで、梟が鳴いている。
穏やかな風に、かすかに葉のざわめきが聞こえて、静かな夜だった。
カカシは黙ったままだ。俺は不安を感じた。
「もしかして、一人で泊まりたかったのか?」
カカシが俺に対して気遣って言ったと思ったセリフは、本当は、俺を婉曲に断っていたのかもしれない。そこまで気づかない、俺はやっぱりガキだ。
カカシの予定っていうのもあったのかもしれない。なんとなく、イヤだけど。
「え?違うよ。サスケがいいんなら、一緒に行こうぜ」
そう言ったカカシを、俺はそっと盗み見る。
その表情に、たぶん嘘はなく、俺はちょっとだけ安堵した。