鳴門の案山子総受文章サイト
この時期の温泉旅館は閑散期なのだろうか。
予約ナシでも、全然OKらしい。こんな豪華な施設なのに。
本当にシーンとしてて、誰もいない。
「結構ヒマなんだな」
俺がつぶやくようにそう言うと、カカシは喉の奥でクククと笑った。
「なんだよ、カカシ」
カカシは、覆面の下も多分笑ったまま、俺を見下ろす。それでも、こういう時に意地悪くからかう、大人のそれじゃない。俺がカカシに好感を持っているとしたら、そういう部分が大きいのかもしれない。
「知ってるようで、知らないんだな、お前」
「なにを!?」
「ここっていわゆるラブホテルってやつだよ(笑)」
「え?!」
俺だってガキじゃない。ラブホテルくらい知ってる。でも、ここは、俺が見たそれらとは全く違っていて、俺が、老舗の旅館と間違えたのも、無理はない。そんな俺の発想を見抜いたかのように、カカシが付け足す。
「お前たちが使うような、安っぽいとこじゃないけどね」
悔しいけど、そういうことか。
俺は改めて周りを見回した。
やはり誰もいない。当然、顔をあわせないようにできているんだろう。
カカシは、俺が気づかない、なにかの誘導に従って部屋に向かっているようだ。
それにしても、下手すりゃ・・・・いやしなくても、そこらの豪華なホテル以上の雰囲気って感じだ。たぶん、国や里のお偉いさんが使うようなレベルなんだろう。
俺は、ヌボーっとしたカカシを見上げる。
時々、里における、カカシの正確なポジションがわからなくなる。
凄い人なんだろけど、全くそれが実感できない。
部屋への誘導の印をキョロキョロと探しながら、俺は気になったことを言ってみる。
「でも、それなら、カカシと俺って、まずくないか?」
俺的にはちっともまずくはなかったし、むしろ、なんとなく、カカシと一緒ということで、ワクワクしていたくらいだが、ラブホと知って、そういうリアクションをしておかないとそれこそまずいだろう。
しかし、カカシはスタスタと離れの方に、慣れた感じで歩きながら、
「全然」
と言った。全然って・・・・・アンタ・・・・
「ふうん・・・・・ええっ?!おい、カカシ・・・・カカシってば」
「俺、温泉入りに来てんだもん。常連なんだぜ」
それはわかる。迷わず、歩いてるものな。俺はまだその誘導がわかんないんだけど。
でも、普通は邪推するよ。
温泉って言っといて、ホントは女の子、連れ込んでいるんじゃないの?っていうか、健康な男なら、それが普通だよ。
俺はまた、カカシの方を伺う。
「なんか探してるみたいだけど、部屋番号が光ったりとか、そういうベタなの、ここじゃないから(笑)」
「う・・・・じ、じゃあ、なんで部屋とかわかるんだよ?」
カカシはやっと立ち止まり、そこは、カカシが一緒じゃなきゃ、俺一人じゃ手に負えないような立派なドアがあった。
「あの入口から入れば、ここに着くの。部屋ごとに玄関あるの」
絶句・・・・・
そういう作りのホテルがあることは聞いたことがあるが、それにしてもスケールが違う。なんてバカなスケールだ。お偉いさんがたが、そういうことにかけるエネルギーの凄さを思い知る。
カカシはドアを開ける。
扉は頑丈だが、中は繊細で優雅な広々とした和室だった。
カカシは、部屋に入って、はぁ、やっぱりいいね、畳は落ち着くなどと爺くさいことをほざいていた。
「カカシ」
「ん?」
「ここ、高いんじゃねーの?」
「さあね。知らないよ」
「ええっ!!」
よくわからない思考回路だ。
「知らないって・・・・常連なんだろ?」
「いいんだよ。特A任務で貸しを作っといたから、使いたい放題なんだ」
「だ・・・誰に?!」
しかし、カカシはそれに応えず、襖を開け放ったり、縁側に出てみたり、色々している。
「そんなことよりさ」
う・・・話をそらされた。
「温泉行ってくれば、サスケ」
そう言って、浴衣を放ってよこした。
「行って来ればって・・・・・アンタは?」
できればカカシと入りたい・・・というヨコシマな考えを悟られないように、俺は浴衣を手にして、もう行きますよ、という雰囲気を出しながらさりげに聞き返す。
「傷だらけなんだ、俺の身体」
「そんなこと・・・」
「俺が見られたくないの。じゃ、行ってきな」
とりつく島は・・・ないようだ。
俺は浴場へと向かう。
来る途中に露天風呂と書かれた表示があった。
本当にどこまで豪華なんだろうな、ココ。露天風呂っつったって、二人しか入らないだろうに。
それにしても、カカシが見られるのをいやがる程の傷って・・・・
忍びだから、むしろ傷がないほうが変だろう。あの目の上の傷だって見たし(ハンサムらしいのだが、一部、表情筋までが切れてしまっているから、よく見ると微妙に歪んでいる)、あの試験官のイビキだっけ、あいつの傷だって別になんとも思わない。
俺は浴室の雰囲気バッチリの障子を開けた。
「見せたくないのは・・・・・」
傷とかじゃないのかな。
考えながら服を脱ぐ。
もしかしたら、またまた、婉曲に俺を遠ざけたのか?俺ってば、舞い上がって、再びやらかしたみたいだなぁ。
勢いよく湯に入る。(いい子は身体を洗ってからだ!)
暗い空に白い湯気が立ち上り、さっき外で聞いた風のざわめきや、梟の声が聞こえてくる。
「あああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
俺は思いっきり伸びをして、その気持ちよさに没入した。