3 秘密

 


露天風呂は最高だった。
ガキな俺でも、その程度のジジイくさい快感は、わかる。
しかし、いくら気持ちがいいっていっても、もう、俺の露天風呂滞在時間は、限界にきていた。ちょっと頭を振れば、グワングワンして鼻血が吹きこぼれそうなくらい・・・・・つまり、完全にのぼせた。
こんなにがんばる理由は、一つ。
もちろん、カカシのためだ。
っていうか・・そのぅ・・・カカシの裸を見るためだっ!!(よし、言い切ったぞ)
のろのろと身体を洗ってみたり、ジーッと風の音を聞いてみたり、とにかく、ありとあらゆる手段を使って時間を稼いだんだが、やっぱりカカシは来なかった。
来ないとわかってはいても、かなり、がっかりした。
待つっていうのは・・・・ホント、いつもかなりの精神エネルギーを消費しやがるよなぁ。
俺は、顔から「空振りしてがっかりしたバカな男」の表情を剥ぎ取り、空元気を出して、部屋へと戻った。

カカシはいた。
いや、いて当たり前なんだけど、独りでいたモンモンとした寂しい時間は、もしかしたら、カカシがどっかに行ってしまったんじゃないか、などという、乙女モードを俺に注ぎ込んだらしい。
カカシはすでに浴衣に着替えていて、もしかしたら、部屋で裸が見られるかもという、「上半身だけでもいいとする妥協案」は、部屋に戻った瞬間、木っ端微塵に撃沈された。よくよくついてない。
 「長いなぁ~、サスケ。お前、なんか爺くさい(笑)」
畳がいいといったカカシに、俺が内心爺くさいと思ったことを見透かされたのかと思って、ちょっとびっくりした。
縁側にあった座椅子に腰を下ろす。ギシリという静かな音が、開け放たれた障子から外に広がっていった。
 「うるせぇ、カカシ。俺が年寄りみたいにじっと湯に浸かっていたとでも思ってるのか?」
 「え?違うの?」
 「泳ぎまくり、潜りまくり、遊びまくりだ」
子供だなぁ、と言われるかとちょっと身構えたが、カカシは、
 「はははは。バカみたいだなぁ、お前」
と思いっきりバカ呼ばわりしてくれた。そして立ち上がると、
 「んじゃ、俺も行ってくるよ」
と、部屋を出かかる。
 「ん?・・・・ああ・・・」
俺が目でそれを追うと、カカシは戸口でいきなり立ち止まり、俺のほうを振り返った。目が合って、見つめていたことを悟られた俺は、激しく心臓をバフバフさせた。
 「サスケ」
 「な、なんだよ?」
ま、まさか、覗くなよとか言われちゃうんじゃ・・・・・
俺、そんなにヤバイ目、してたかな。でも、男のカカシに、覗くなって言われたら、俺の立場って・・・
 「先に寝てていいからな」
へ?
 「あ、ああ、わかった」
違った。はあ・・・・びっくりした。
一応、片思いだからな。この熱い思い、カカシに知られたら、ヤバイしな。
なんでヤバイって・・・・やっぱりアレだろう、先生と生徒・・・いや、違う、上司と部下だからだ。うん。
社内恋愛ってヤツに該当するからだよ。はははははは・・・・・・
・・・・・・いや。わざとポイント外して、どうすんだ、俺も。
一番のポイントは、おんなじ性別ってやつだろう。(あと年の差)
俺はそういうことに、偏見はない。まあ、当事者だしな。それに、今までの人生がかなりぶっ飛んでヘヴィだったから、今更、周りからどう思われようが、それもどうでもいい。っていうか、全く平気だ。
でも、問題は・・・・・・・

・・・・カカシがどう思うかだよね。

暗い外の景色に目線を飛ばす。
イチャパラなんか読んで、身体もでかいし、何処から見ても、立派な男だよな。
まあ、いくら男っぽくても、むしろアスマまでいっちゃうと、かえって疑惑は深まるけどな。でも、カカシは違うな。
たぶん、男になんか興味ないだろうし、アスマが迫ってくるならともかく(何回も出して、アスマわりぃ・・・)、年下の、しかも自分より小さな男が「ジュテーム」じゃ笑うよな。

ううっ・・・・なんか寒くなってきた。
春といえ、まだ夜はかなり寒い。
俺はガラス戸と障子を閉めると部屋に戻った。居間から続く、隣の襖を開けてみる。
二つ、布団が敷いてあった。
ドキンとする。
そりゃあ、そういう場所だもん。あたりまえだよな。
でも、今の俺たちは、違う。
任務後の疲れを癒しに来た仕事仲間だ。
ああ、辛い。
現実がこんなに辛いとは。
こんなに完璧なお膳立てなのに、リアルが「仕事仲間」だって。

はぁ・・・

俺が他人なら、大笑いするトコだぜ。

2006.03.21.



2016/02/07再掲。続きます