オビト、会議に参加する 5

抱けば、何かがわかると思っていた。
わからないでも、しかし、カカシの人生は、オレの人生に密接にまとわりついて、オレはそれに満足するだろうと思っていた。
カカシと寝て、オレは悟る。
そんなものじゃないってことを。

カカシの部屋で、オレはカカシを抱く。
男を抱いたことなどなかったのに、あの春の日の戸外のキスみたいに、すべては自然だった。
春の日浅い静かな午後。
初めて見るカカシのすべて。
リンが好きだった整った顔は、幼い面差しを残して、でも、大人の男の顔になっていた。
カカシもオレをじっと見上げる。
オレの顔に、同じだけの年月を見ているのだろうか。
オレがキスしようと顔を近づければ、カカシも自然に顎を上げる。
唇が触れる。
もう充分に互いに大人なのに、心が映る空があれば、それはもう土砂降りだったに違いない。
身体の中では激しく泣いているのに、下半身は熱く火照って、皮膚は冷たくあらゆる思いを静かに包んでいた。
『好きだ』
そういうオレのセリフは、行為に対する言い訳のように聞こえて、オレは奥歯を噛む。カカシが頷いて笑んだ。
「オレも好きだよ、オビト」
カカシの方がよっぽど率直で、オレはカカシの胸に自身の頭をこすりつける。
『初めてだから、不都合あったらすまない』
オレのセリフにカカシが本気で笑って、
「真面目だね、相変わらず」
と言う。
『オレが?真面目?』
うん、とカカシが言う。光がその顔に輝く効果を乗せて、オレは見とれる。
「オビトは真面目だったでしょ。だって、いつも迷って考えていたし」
確かにそうだった。
「一生懸命だから、考えるし、迷っていたんだよね」
『カカシ・・・』
「お前に、」
『・・・・・・・・』
「火影になって欲しかったなあ」
もうダメだった。
時間をかけなきゃいけないことだけ、頭に入れて、でもオレは性急だった。カカシに対する想いを、それ以上、皮膚の中に収めておくことができなくなっていた。ベッドサイドにある潤滑剤を手に取って、でも、そこで初めてオレは動きを止める。それは使いかけだったのだ。
『お前の恋人に悪い事してないか?』
突っ走って、そういう可能性があることをオレは失念していた。
カカシはもの凄く赤面した。
『ん?いるの?特定の?』
応えない。
その様にあまり傷ついていない自分に、オレは逆に驚いていた。
「いる」
余程経ってから、カカシが言った。顔を背けて、怒った口調で。
『そうか』
オレはボトルを元の場所に置く。
「やだっ!」
オレは驚いてカカシを見る。
自分が悪いということを十分知っていて、でも、必死な表情だった。
「いやだよ、オビト!」
『カカシ、でも、』
「これ、夢なんだろ?!」
カカシ・・・・
「オレ、夢でもお前に会えて嬉しくて」
あまり、煽るな・・・・
「あの日、キスされて」
ああ・・・
「オレだけの一方的な勘違いじゃないって思ってた」
カカシの手が、オレの腕を掴む。その力は強くて、オレは顔をしかめた。
「これが恋だなんて馬鹿なこと思ってないよ」
ああ、ああ、わかったよ、カカシ・・・・
「大事で、大事すぎて、切なくて、それで、」
同じだ。お前と同じ・・・気持ち・・・
「その結果がセックスでもいいと思った」
オレは笑う。
必死なカカシは、オレの顔を見て、あまり理解していない表情だった。
『カカシ。お前ごと、この里を愛してるよ』
これでいいんだろ?
「あああ・・・ああ・・」
オレがこの時間を続けようとしていることだけを理解して、カカシが上ずった声をだした。言葉になってない。
『お前も、お前の部下ごと、オレを愛せばいいよ』
その時のカカシのホッとしたような、どこか寂しさの混じった顔を見て、オレはカカシの「恋人」が誰であるか理解した・・・・

濡れた指をカカシに入れる。
オレの脳裏に去来するのは、あの生意気なカカシのガキだから、こんなに綺麗に成長したカカシは、それだけで、オレの心を掻き乱す。
色の薄い肌に乗っているのは、やっぱり薄い色の乳首で、オレはそれをそっと口に含む。
「は・・・あ・・・」
舌で何度も舐めて、でもそれは溶けるどころか、その形を硬くする。
『お前がこんなにイイ男になってるなんてな』
指をゆっくり押し込んで、カカシに力を抜かせる。シーツに髪が擦れて乾いた優しい音がする。
「お前も生きてれば、そんなにカッコイイ男になってるんだね」
『ふふふ・・・カッコイイか?』
「うん」
乳首を指先で弾いて、オレはそのままカカシの下半身に手を伸ばす。
光のせいでプラチナにも見える陰毛が、ヘソの下からだんだん濃くなって、性器の所で、一緒に毛先を上げている。性器はもうすっかり硬くなって、先から透明な粘性の薄い液を垂らしていた。光の粒を乗せているその造形をオレはそっと手で包む。立ち上る体温に混じってカカシの匂いがして、オレはまた心臓がギュッと痛むのを感じる。
「オビト・・・」
拒否にも催促にも聞こえる声。オレは、そっとカカシを含んだ。
「ひ・・・い・・・・」
カカシは、感じすぎたみたいに、痛覚を刺激されたような声を出す。 
「はあ・・・ああ・・・はあ・・・・」
女の子みたいな声じゃなかったが、荒く呼吸するカカシは、もの凄く可愛かった。舐めながら、指も一緒に動かしてやる。
「いっ・・・ああ・・・」
感じているカカシの声を頭上で聞きながら、オレは泣きそうだった。
恋愛じゃないって言ったお前に同意したけど、もう、オレにもわからないよ。
だって、こんなに好きだ・・・・

オレは時間をかけようとしたが、カカシは目でオレを誘導する。もう、入れろと言っているのだ。
『カカシ?』
カカシが頷く。
気持ちは伝わってくる。
一秒でも長く繋がっていたい・・・・オレもそうだよ・・・
指を抜いて、カカシの脚を抱える。
「・・・オビト・・・」
『入れるよ』
カカシは目を閉じて頷いた。
窓から射す明るい日射しは、カカシの肌を半透明に光らせて、健康的に見せていたが、足を開いたカカシの影になった所には逆の効果があった。
オレに雷切を見せて、得意げだったカカシ。
オレとぶつかって、喧嘩して、あの生意気なヤツが、こうして今はオレに縋っていることが、不思議で、同時に胸をジンとさせる。
「オビトっ・・・」
そんな声を出すんだな。
なんでも知っていると思ってた。
オレがお前の唯一の理解者だと、さっきまで思い込んでいたよ。
オレの愛撫で緩く開いた後口を見る。
身体中の何かが、暴れ出しそうになるのを抑えて、オレは自分をカカシのそこにあてがう。
「オビト」
『カカシ』
濡れた粘膜の音がする。オレは自分がカカシに飲まれていくのを見る。
「ああ・・・んんっ・・・」
ずるずると入る感触に、カカシが息をつく。
『カカシ』
「ああ・・・オビト・・・」
カカシの内壁を擦りながら、入るオレ自身の猛った様は、強烈に来る。
『愛してる』
快感におされて、吐く息と共に言った言葉は、カカシに聞こえて無くてもよかった。オレだけが、抱えて、大事に抱えて・・・
 「オビト・・・」
カカシがオレを受け入れて、僅かに背を反らした。
オレがすっかり収まって、カカシが肩で息をする。それをなだめて、オレは動く。
「んんっ・・・あっ・・・はあ・・・」
カカシの両肩の上のシーツに手を突いて、オレはカカシの顔を見た。
オレの動きで動かされて、オレに愛されて変わる表情を、一瞬でも見逃したくなかった。
「ああ・・・いい・・・いいよっ・・・・」
揺り動かされながら、オレに伝わるように言うその唇に、オレは噛みついた。
好きだ
好きだ
呼吸でそう言いながら、噛んで、舐めて、そして動いた。
オレの鼻を伝って、カカシの顔に涙と汗が落ちる。
鼻から感じている息を漏らして、カカシの目尻にも涙が乗っていた。
カカシがオレの首に手を伸ばし、オレは掬い上げるようにカカシに身体を寄せて、カカシがオレにしがみつくのを助ける。
肌が触れ合うと、感じているカカシの呼吸がダイレクトにオレに伝わってきて、どんな戦いでもなったことがないくらい、心臓が喚いた。
「オビト、ああ・・・ああん・・・っあ・・」
『カカシっ!!』
過呼吸なのに、カカシを呼ぶ声は出た。
カカシがちょっと大きな声で、
「オビト!」
と呼んで、オレが視線をカカシの瞳に移すと、
「オレも愛してるよ」
と言った。
オレは、カカシを突き動かしながら、心はシンとして、きつくカカシを抱きしめる。オレの人生から、オレは多くを失って、そして、オレはまたお前を手放さなければならないんだな・・・

傾いた日は、街路樹の葉をすり抜けて、カカシの部屋の壁にチラチラと遊ぶ。それを眺めて、少し冷えたカカシの肩を抱く。
カカシも静かに、オレと同じ光の遊びを見ているようだった。
ああ・・・胸の奥が引きちぎれるようだ。
オレは腕に力を込め、カカシの額に口づける。
ギリギリっと音がしそうに、時間はオレ達をあの馬鹿げた、でも、涙にまみれた必死な戦いのほうへと運ぶ。
もう一度、会おうな、カカシ。
もう少しで、まだ生きているオレと会えるよ・・・・
「オレ、毎日通うから」
カカシが言う。
「英雄の墓所に、毎日通ってるから」
うん、とオレは頷く。
「オビトも、毎日来て」
「ああ」
もうオレが消えること、カカシはわかってるんだなと思って、オレは、何度も頷いた。
オレの視界に広がる銀髪が、光に揺れている。
それは、いつの日か、日の光の下で墓所に立っていたカカシの景色のままだ、とオレは思った。