妄想自慢 11


闇の向こう  [サスケ VS 暗部]

 

空が明るい。
もう、とっくに、夜だっていうのに、川べりの桜並木は、暗い空にほの明るい空気を漂わせていた。俺は、草むらに座ったまま、桜色の空を見上げる。その向こうには、藍色の星空が広がっていて、無数の星は、静かに散り落ちる花びらにまぎれる。

もう俺に選択の余地はない。
あの日から、俺の前に、細い一本の道ができた。
そして、たぶん俺は、自分の意志でそれを歩いてきた。
気づけば後ろに道は無く、俺は前だけを見て進み続けた。
淡いピンクが夜空に散って、雪のように舞う。

俺は立ち上がる。
俺の腕に桜の花びらが落ちる。
憎しみ以外の感情を殺して生きてきたのに、俺を人間に戻そうとする馬鹿な連中のせいで、今、俺は笑む。
胸の奥に微かに感じるこの痛み。

里の入り口に立つ。門も見上げず、俺はそれを抜ける。
ナルトも、カカシも、そしてサクラも。
森を走る。ひた走る。早く走れば、すべてを引きちぎれるかのように、俺は走る。
もう過去だ。
俺に存在しない、たどってきた道。

不意に、右足の着地点に、手裏剣が刺さる。
俺はとっさに目の前の枝を掴み、方向を転換した。
同時に、手裏剣から計算した位置に、クナイを打ち込む。
が、そこまでだった。
俺の身体は、何かの術で、思いっきり背後の大木に押しつけられ、そのまま拘束される。
俺は正面を見る。
気配が全くないまま、目の前に男が現れた。
空気も、音も、一切が無く、俺は音のない映像を見ている錯覚に陥る。
木の葉崩しのときに見た装束。
暗部だ・・・・・・・

暗部は、妙な術で俺を拘束したまま、しばらく俺を見ているようだった。
面をしていて視線も読めない。
里抜けは重罪だ。
俺は、こんなところで粛正されるのか?
わずかに自由になる指で印を組む。途端に、スッと首に鍔のない日本刀をあてがわれた。
俺は印を諦める。
  「帰れ」
俺は耳を疑った。
でも、確かに男はそう言った。
俺は、暗部の面をにらみつける。
  「誰だ、貴様」
暗部は応えない。サッと刀を鞘に収めると、
  「帰れ」
と再び言った。
俺は笑う。
  「お前なんかよりずっと大事な奴らを裏切ってきたんだ」
俺の脳裏にさっき見た桜色の雪がよみがえる。
俺がもう少し大人だったら、あの土手にいつまでも寝ていられたかもしれない。
すべて放擲して、立ち止まることもできたかもしれない。
でも俺は・・・・・
  「帰らねば、切るぞ」
そう繰り返す面に向かって、俺は怒鳴る。
  「でも、俺は忘れられないんだ」
血にまみれたあの日を。
忘れて、そうだ、忘れたように振る舞って生きて行くには、あまりに鮮やかな血の色を
  「俺は忘れられない」
忘れるままに、笑顔のあったあの日々を、無かったことになんかできないんだ。
わかってもらえるわけもないのに、俺は言葉を吐き出していた。
暗部は黙って俺を見ている。
  「切るのか?」
殺されても、仕方ない。俺は写輪眼を持っているのだ。
と、暗部がまとう空気が変わる。
俺は男を見上げた。
  「決心は固いようだな」
そう言うと、俺に背を向ける。
  「おいっ!!」
俺は驚き、その背に声をかけた。
男は立ち止まる。
  「俺はうちはサスケだ。写輪眼を持っている」
風が吹いて、男の気配を、それだけで見失いそうだった。
  「いいのか、俺を逃がしても」
何を言っているんだ、俺は。
でも、でも、この状況は・・・変だろう・・・・
男はわずかに肩をすくめると、
  「ボクなら切ってしまうけど」
と言った。
あ? ボク?
なんだ、こいつ・・・・
  「先輩が見逃したから、それを尊重しただけだよ」
先輩?
わけがわからない。
  「ちょっと、どういう奴かなと思ってね」
  「お前、誰だ?」
暗部は俺を試すように沈黙を返して来る。
多分・・・・笑っている。
また風が吹く。
強い風に気を取られた瞬間、もう男はいなかった。
俺は目の前の闇を見つめる。
俺の行く先を見つめる。

もうずっと、そこは闇だったように、俺の目は感じていた。