妄想自慢 4


もう一つの未来 [ナルト×カカシ]

 

疲れていた。
ベッドに横たわり、窓の外を見上げる。
貴重なはずの休日は、昼過ぎに目覚めて、コーヒーだけを飲んで・・・・
そして、こうしてぼんやりして、無為に過ぎていく。
午後の空は、すでにかすかなオレンジをその色に溶け込ませている。


親を早くに亡くすなんて、里ではむしろありふれたこと。
それでも、今は、その暖かさが恋しくて仕方なかった。
普通に生きたかった。
そう思って、自分でもその幼稚な願いに苦笑する。
不幸が蔓延して、普通も幸せも、いちいち定義が必要なこの時代に。
殺し、殺され、それが日常なのに。
  「父さん」
あえてそう言ってみる。
しかし、思いがけなく、その言葉はストレートに自分の耳に響いた。
両手で顔を覆って、ちょっとだけ涙ぐむ・・・



やがて、涙も乾く頃、カカシは起き上がった。
外は、すっかり夕暮れの透明な色になっていた。
郷愁を刺激する空気に、窓を閉める。

と、ドアをノックする音に気がつく。
ドアを振り返って、その瞬間、既視感を感じて、カカシはその動きを止める。
ずっと前・・・・
締めた窓を振り返る。
こんな瞬間が・・・・確かにあった・・・
  「せんせぇー!!」
ノックの音が大きくなる。
ナルト・・・・
  「カカシせんせってばよ!!」
ドアが破られる勢いだったので、カカシは慌てて、玄関に行った。
開いたドアから、ナルトが飛び込んでくる。
  「どうした、ナルト?」
  「どうしたじゃないってばよ!!俺、先生のこと心配で・・」
  「え・・・・あ、ああ、そっか」
最近の元気のなさは、敏感なサクラやナルトに感づかれていた。
  「ぶっ倒れてんじゃないよね?」
  「大丈夫だよ、でも、ありがとうな」
カカシはいつもの調子でナルトの頭に手をやろうとして、なぜか果たせなかった。
いつの間にか成長した金髪は、もう自分の背を追い越す勢いだった。
不自然に間がひらく。
そして、沈黙を破ったのは、ナルト。
  「先生って」
  「ん?」
  「やっぱいい男だったってばよ」
  「あ」
顔は晒していた。
そんなことに気づかないほど、『やっぱり、俺はどうかしてる』と独りごちた。
  「サスケやサクラには内緒だぞ」
  「にひひひ・・・・・・わかったってば」
ナルトは笑うと、手にしていた袋をカカシに差し出した。カサリと乾いた音がする。
  「なに?」
  「カップ麺だってばよ。俺と先生の夕食」
お湯はっと・・・などと言いながら台所に行く、成長したナルトの背を見て、また涙が滲むのを感た。
野菜を食えだなんて、俺は、なんてかわいそうなこと言っちまったんだろう。
ずいぶん昔に自分が言ったセリフがよみがえる。
子供が・・・・一人で精一杯生きている子供に、俺はなんて残酷なこと言ったんだろう。
大人の俺ですら、清濁飲み込んだ俺ですら、感情をコントロールできないことがあるのに。
そんな子に、今は、慰められている。
  「先生、ヤカン、ある?・・・・せんせ?」
戻ってきたナルトがカカシを見て、息をのむ。
カカシは椅子に座って、テーブルの上のナルトが持ってきた袋を抱えて、そのまま突っ伏してた。
  「具合悪いのか?・・・・カカシ先生?」
ナルトの心配そうな声が、耳のそばに聞こえる。
  「いや・・・違う」
カカシは顔を上げた。人前で泣くなんて、あの時以来だ。
  「先生・・・」
カカシが泣いているのを知って、ナルトは、カカシが今まで見たことのない表情をした。
  「自分が情けなくて泣けてきた。お前にまで心配かけて」
ナルトは、黙ったまま、カカシを見つめる。
  「ヤカン、あるよ」
そう言って立ち上がろうとしたとき、ナルトが絞り出すような声を出した。
  「俺は」
  「え?」
  「先生を泣かすために来たんじゃないのに」
  「ナルト・・ちがう」
  「わかんねぇ・・・なんで先生が泣くのか」
  「お前に関係ないよ」
  「先生こそ関係ない。こんなに・・・」
ナルトが自分の服の胸を、ガシッと右手で鷲づかみにした。
  「なんでこんなにここが痛い?」
  「ナルト・・」
  「苦しい。俺は・・・」
  「・・・・」
  「俺は、みんなを幸せにしたいのに・・」
気がついた時は、カカシは跪いて、ナルトを抱きしめていた。
ナルトの暖かい身体の、その向こうに、忘れがたい姿を感じていなかったといえば、嘘になる。みんなを幸せにしたいと、ためらいなく言うその心の大きさは、まさしくその人のもの。
  「クソッ」
カカシが呻く。みっともなく涙が流れ落ちる。
ナルトの手が伸びて、カカシの頭部を抱きしめた。
  「先生・・・泣くなよ」
  「泣いてないよ」
  「変な嘘だってば(笑)」
  「俺にだって、先生がいるんだぞ」
  「あの写真の?」
  「・・・うん」
  「どんな人だった?」
カカシがその腕を緩めて、ナルトを見た。
お前にそっくりな・・・
  「優しい人」
ナルトが、また、見たことのない表情を浮かべた。
ナルトの手が、カカシの頭部を離れ、身体の方に落ちる。カカシがその表情を読み解けないまに、身体を離そうとして、また、ナルトに強く抱きしめられた。
  「ナルト・・?」
ナルトが震えていた。
身体に回された腕は、ますます強くカカシを抱く。
  「先生が誰を見ているか知ってたよ」
ナルトの背の向こうに、四角く切り取られた夕焼けが燃えている。数羽の鳥が、その景色を横って、確かに、今、自分は幸せだと、カカシが自分に言い聞かせる。
  「世の中は、思いどおりにはいかないって、散々、聞かされてきたし・・」
ナルト・・・
  「俺もそう言えるだけ、いろんな経験してきたってば」
カカシが何か言おうとして、いきなりナルトに口づけられる。
驚いて目を見開くカカシに、ナルトが言った。
  「何も言わなくていいよ。俺だって、もうガキじゃないんだ」
ナルトの両腕がカカシを抱き上げ、立たせ、ベッドに腰掛けさせた。
  「先生、抱いていい?」
ナルトが意志的に抱きしめてきたときから、こういうセリフも予想できた。
  「お・・・俺でいいのか?」
出てきたのは、否定でも迷いでもなく、みっともない確認作業。
だって俺は、先生で、年上で、男で、何より、俺が見てるのは・・・・・・・
  「ずるい俺でいいなら、先生をこそ、俺は抱きたい」
  「ずるい?」
ナルトは、歯を見せて笑った。
  「先生が落ち込んでるとこにつけいるんだぜ?」
  「ははは・・・・」
  「しかも、先生の好きな人が俺じゃないってことも知ってる」
どんなにわかってはいても、そのセリフを聞くのはつらい。言い訳しようとカカシが開いた唇を、も、ナルトはまたキスでふさいだ。
  「好きなんだ」
上体をベッドに押し倒される。
カカシはそのとき初めて、部屋がかなり暗いことに気づいた。
そして、そのことにホッとする。
  「いつもは正々堂々な俺が、先生には・・・卑怯満載で、恥ずかしいってば」
そう言ってまたキスを繰り返す。
カカシは、自分の頭の芯がぼーっとなって、下半身に熱が集まるのを感じた。
キスって・・・前儀だったんだと思い出すくらい、人には触れられてなかったことを思い出す。
ナルトがベッドにつく手を動かしたとき、ナルトの股間がカカシの太腿に当たり、心臓が跳ねる。
  『俺に勃ってる・・・』
その事実は、遠い昔に忘れ去っていた柔らかな気持ちを刺激して、カカシは顔が笑んでくるの止めることができなかった。
ナルトを見る。
ナルトもわき上がる笑顔を隠せないでいた。
  「ずっとこうしたかった」
そう言って、カカシの上に覆い被さってきた。
ベッドが軋む。
  「先生とセックスしたかったってば・・・」
ナルトの暖かい舌が首筋を舐める。
カカシは、ナルトの金髪にキスをした・・・・・



いつの間にか時刻は8時をまわっていた。
  「腹減ったってば」
ナルトがベッドから身体をのりだし、窓の外を見る。
部屋は真っ暗なまま、外の町の雑踏の方が、むしろ明るいくらいだった。
  「あ~、カップ麺忘れてたな」
ナルトがベッドを降りようとして、その腕を軽く止められる。
振り向くと、今まで身体を重ねていたカカシがいて。
夢中で抱いていたときには感じなかった気恥ずかしさがあった。
自分の顔が、みるみる赤面していくのがわかる。
こんなに恥ずかしいなら、もう一度抱いて、さっきの空気を呼び戻したいくらいだった。
カカシが、笑んで、
  「俺も食べたい」
と言う。
ナルトはしばらくカカシを見つめていたが、それからあわてて大きく頷いた。
カカシがその様に笑み。
時間は無数の未来から、一つを選んでゆっくり転がった・・・・