鳴門の案山子総受文章サイト
深夜の居酒屋は、大声じゃないと、隣の声さえ聞こえないような騒ぎだった。
頻繁に引き戸が開いて、後から後から、人が入って来る。
人の密度が濃くなるにつれ、宴席も乱れる。
金髪の特別上忍が、顔を赤くして、ナルトに言った。
「ずいぶんでかくなったよなぁ」
「180超えてます」
ゲンマもでかいが、ナルトはさらに体格もよかった。
「ふ~ん・・・お前さぁ、なんか男も喰っちまいそうだよね?」
半分正解と、リアルさを出せば、笑いがとれたか?
とにかく、もう、そんな事で動じるナルトではない。
「俺に喰われる最初の男になってくれんの?不知火さん?」
軽口を返し、ゲンマの前に手を差し出した。
「ぎゃははは・・・」
本気で、単に冗談だったらしく、ゲンマは馬鹿笑いして、「お願いしようかな?」などとほざいた。
ナルトも笑って、その肩を小突く。
もちろん、同じ席にはカカシもいた。
ゲンマとナルトの冗談にも、なんの反応も見せない。
隣のアンコと、ここにはいない紅の話をしているらしかった。
が。
ゲンマの馬鹿笑いが鎮まった頃、いきなり、カカシがゲンマを指さす。
「は?」
笑いの余韻と完全にまわった酔いとで、ぼんやりした目つきで、ゲンマがカカシを見る。
ナルトもつられてカカシを見た。
カカシがゲンマを指さしたまま言う。
「残念だな。俺が一番だ」
「へ?」
ゲンマが理解できずに視線を泳がせ、ついでナルトの顔を見た。
ナルトにもわからない。ゲンマに首を振って見せた。
「なんのことだってば?」
「え?お前に喰われる最初の男」
カカシが、なんの感情も交えない声で言う。
ゲンマが唖然として、手にしていた焼き鳥を落とした。
「・・・カカシさん、すっげー変化球ですね」
ゲンマは、あくまで冗談であると位置づけたいらしい。
しかしカカシは、いやいやと手のひらを振り、
「はあ?変化球なもんか、直球だよ」
と言った。
ナルトが青ざめる。
『やっべー・・・先生、酔ってる・・・』
普段、酔っぱらうほど飲まないカカシだ。
ただ、たまに、飲む人間ばかりの席に混じると、自分のペースを逸脱する。
しかも、顔にでないから、周りが気がつかないうちに飲み過ぎて、急にダウンすることがあった。
「先生、ちがうでしょ、何言ってんの?」
カカシの前から酒を撤去しながら、ナルトがフォローする。
「あ・・・ちがったな」
カカシが頷く。
「でしょ~?びっくりしたってば」
「うん。喰われる、じゃなくて、喰われた、だった(喜)」
ナルトがのけぞる。
自分の常識範囲外はすべて冗談、というスタンスをとることで、自身の精神を守るゲンマは、
「カカシさんておもしろい人だったんすね」
と言った・・・・
◇
「自分の言ったこと、覚えてる?」
カカシをベッドに寝かせて、ナルトは下着姿のまま、ベッドの端に腰掛ける。
ナルトの部屋は相変わらず乱雑で、こんなベッドに寝かせるのも、実は気が引けた。
「・・・・いつ?」
顔を片腕で覆ったまま、カカシが呻くように聞き返す。
「居酒屋で。不知火さんに」
「ゲンマに?あいつ、いた?」
はぁ・・・ナルトは溜め息をつくと、カカシの腕をよける。
「やだ。まぶしい・・・」
「じゃ、消すよ」
パチン。
微かな音がして、部屋が暗くなる。
ナルトは暗闇で、もう一つ溜め息をつくと、ソファーの上に横になった。毛布を一枚、引っ被る。
「ナルト・・・?」
「なに?」
「俺、なんかやばいこと言った?」
カカシが本気で気にしている。
ナルトは、暗闇で笑むと、それがカカシにわからないように素っ気ない声で言った。
「いや。自分はおっぱい星人だって言ってただけだってば」
「ええっ?!俺が?」
そのあと、マジで考えているらしく、沈黙が流れる。
ナルトは、毛布をかぶると、声を殺して大笑いした。
「ねえ・・・なんか笑ってない?」
「・・・は?・・わ、笑ってねえってばよ」
ナルトはちょっと優越感に浸って、ゲンマを指さしたカカシを思い起こしていた。
もちろん、ナルトとカカシの間に、そんな関係はない。
ナルトはグルグル考える。
ゲンマが冗談と決めつけたように、ナルトが居酒屋での一件を話したら?
やっぱりカカシも「冗談でしょ」と言うのだろうか?
はあ、と心の奥底で溜め息をつく。
結局、いつも一歩踏み出さなきゃいけないのは俺の方だ。
しかも、真に受けていいのか悪いのか、いつも微妙とくる。
「ナルト~、やっぱり、笑ってるよな?聞こえるぞ」
本当に、ずるい大人だってばよ、カカシ先生。
「コレは、イビキだってばよ!!」
ナルトはそう言って、ソファーの上で寝返りを打った。