真夏の夜の話 (繋がる) 2




縁側を撫でるように過ぎる夜の風は、夏だから耐えられる涼しさにまで温度を下げているようだった。
虫の声が、途切れがちに、でも、静かな時間を紡ぎ出している。
謝って、それで何もかも許されるわけじゃないのに、二人の行動は、もう、止めようがなかった。

二人の力は、向き合ってぶつかっているようで、でも、気づけば、さっきまでカカシが寝ていた和室にいた。
述べられた寝具に勢いよく倒れ、その騒ぎに一瞬、カエルの声も止まる。
ナルトの手が乱暴にカカシのシャツを捲り上げ、カカシもそれに抵抗しない。
ただ、何かのはずみに上げたカカシの「あ・・や・・」という声に、ナルトは奥歯を噛みしめた。
カカシからすべてはぎ取って、ナルトも自ら脱ぐ。
性急な運動に乱れた呼吸は、ようやく整って、今度は別な要求で荒くなる。
うなされる病人みたいに、確認を求めるナルトに、もう、カカシは応えない。
好きだというフレーズと同義であるかのように、「先生!!」と、吐くナルトに、カカシは、初めて見るような、諦めを浮かべた白い顔で、
  「どっちにしろ、もう、間違ってる」
と、肺腑が抉れるような囁きを返した。
綿のシーツが、星の光に淡く映る。
その濃い影に、きちんと闇が宿っていて、布団に押し倒したカカシの上に馬乗りになったナルトは、今、そんなことに知覚を配る自分の感覚に、我慢強くつきあった。
闇の上に、カカシの銀髪が散らばる・・・・・
  「毎朝、メシを食うたびに、」
それがどんなに陳腐な例えでも、ナルトは言わずにはいられなかった。
  「いちいち、食欲を疑うのかよ?」
  「え?」
  「正しい朝食と、間違った朝食があるのか?」
  「ナルト・・・・なんだそれ(笑)」
笑うカカシにかまわず、自身の下半身を押しつける。
カカシが声を飲み込んだ。
カカシのそれも、今は形を成しつつあった。
  「先生と、したい」
  「・・・・・・・」
  「後悔してもいいんだ」
どこかで聞いたような理屈。
  「負けたんじゃないよ」
  「ナルト」
  「負けてない。エッチな気持ちに負けてるんじゃない」
笑いそうな気分と、泣きそうな気分が、カカシのなかで入り交じる。
  「何も無かったように、」
ちょっとあけた言葉の間隙に、虫の声・・・・
  「たぶん、生きていけない・・・から」





溢れる自身の唾液の量に驚いて、でも、それを舐め取ってみれば、カカシもその先端から盛大に漏らしていた。
最前の、カカシが誰かに謝る言葉が、ナルトの耳に、脳裏に焼き付いて、指が触れる柔らかい奥の感触と、ごちゃ混ぜになる。
謝りながら、欲情する身体を星の光に晒す先生は、たぶんイケナイコトと知りながら、怒張を持てあます俺に、ぴったりだった。
だって、こんなにわかり合えてる。
  「先生・・・ごめん・・・」
意味を持つ言葉のハズが、今はただの荒い呼吸のついでだった。
  「言うな」
先生の拒絶も同じ。
何か正しいモノが俺たちを苛んでも、燃えるようなエネルギーを食い合うのを止めることはできない。
俺は、たった今、それを学びながら先生を抱いているが、先生はもうとっくに知っているようだった。
立場が変わればなんの意味もない正義を盾に、人殺しをするように、
  「ああ・・・先生・・・」
カカシは、任務の延長みたいな手慣れた感じでナルトを煽る。
それは、ナルトの「暗部」のイメージそのもので、本当だった刺激的な噂を、ナルトは気が遠くなるような気持ちで慰撫する。
  「先生じゃないみたいだ」
目の前のカカシが、今までのカカシ以上にカカシそのものであることに、電撃のような衝撃を受けつつ、でも、イヤじゃない。
俺の前にチンポまで晒して、本当は手の届かないところにいるはずの大人は、今は俺をちゃんとその視角に入れている。
  「そうか?」
いいながら、それは、カカシ自身に対する問いかけを一切含まず、俺がついてくるのを待っているだけなんだ。
  「俺だって、ただの男だよ」
そんな先生の溜め息混じりのセリフだけで、俺は死にそうになる。
外の闇が静かに室内にも展開されて、先生の皮膚の上にある僅かな光を集める汗は、そのまま夜空にある星みたいだった。
先生が動くたび、形いいその鼻梁の影が頬に動いて、俺の脳を掻き回す。
見るまでは、局部が極致だと思っていたバカな俺は、闇にあって、網膜を何度も焼かれるようだった。
先生の、カカシ先生の、この人のすべてが、こんなに淫猥だったなんて。
カカシが、身体を動かし、ナルトの動きを助けようとするが、
  「入らないよ・・・」
探るそこは、ペニスより細い指すら入る様子もなく、ナルトは情けない声を上げた。
  「焦んないでよ」
鼻にかかった声が、ナルトを諫める。
焦るなと言い、カカシは、ナルトの顔に自身の顔を近づける。
あらゆる欲望が一気に体内を走り巡り、そのせいで一瞬制止したナルトと、それに縋るカカシの姿は、遠目には睦まじい会話をしているようだった。
  「もっと・・・」
カカシが吐息に混ぜて言う。
  「も・・・もっと?」
制止したまま、ナルトはカカシの言葉をなぞる。
  「時間、かけて」
それは、性交に対する懇願だったが、ナルトの耳には、別の比喩に聞こえた。
ナルトが抑えた声で強く言う。
  「まだそんなこと言う!!」
  「は(笑)・・・そんな、ナルト、お前さ・・」
  「もう、イヤだ。待ちたくない!」
強く言いながら、ナルトは自分の指をしゃぶる。
  「そんなこと言ってないだろ?俺は、」
  「イヤだ!」
  「お前だって、痛いよ?」
  「そうじゃない。待てないだけっ!!待てないよ!」
噛み合ってないのに、それは互いの心臓を抉るように突き刺さる。
カカシが諦めて、上体をシーツの上に戻した。
ナルトは、カカシの脚を押し上げて、星明かりにそこを見る。
  「ここも舐めていい?」
返事をする代わりに、カカシは右手で顔を覆った・・・



2010.02.19./03.14./07.19
2013.07.09(一部手直し)

続く