56日分の葛藤




一週間は多分長い・・・・・
病室の白い壁を見る私は、覚醒から、まだ三日目である事実に嘆息する。
昨日は、目を覚ました私を見舞って、友人や先輩後輩が、病人を気遣う賑やかさで、時間があっという間に過ぎた気がしたが、静かに今朝を迎えてみると、ベッドに縛られる残りは・・・・・死にそうに退屈そうだ。
窓の外を見る。
乾燥した空気は透明で、冬に向かう淡い空に浮かぶ雲に、私の葛藤なんて、この世界とはなんの関係もないんだと思い知らされる。
だから、安心するんだけど・・・・
私は二度目の溜め息をついて、ベッドに深く潜り込んだ。


いつの間にか寝ていたらしく、静かな作業の音に時折起こされて、任務前に自分が作った薬を飲まされたりして、ちょっと笑むような、そんな穏やかな時間が流れる。
気がつくと、目を覚ますたびに確実に、窓枠で区切られた太陽の日だまりは、その位置を部屋の奥に移動させて、時間の経つのが目に見える事に、私はささやかな喜びを感じていた。
そして、ちょっと油断する私の頭に入り込んでくるのは・・・・
そう、先生のこと。
昨日もナルトと一緒に来てくれたが、ナルトとの「先生に気づかれないようにする」という約束を守る以前に、その約束を発動しなければならない事態にならなかったので、それはよかった。・・・・のか?
先生はいつもの先生で、つまり、私の記憶にある先生で、若干、頬が赤くなってて、目が私の知ってる先生の二倍比くらい優しい色を帯びている以外は、何も・・・・変化はない。
逆に言えば、本当に恋人なの?と思うくらい、普通だ。
  「昨日の今日で何も変わった事なんてないだろうけど・・・ま、毎日来るってばよ」
微妙に目が泳いでるナルトを、私は静かににらみ返す。
  「いいわよ。忙しいんでしょ?」
  「ま、まあな」
本当に、挙動不審なんだから。
私だってバカじゃないし、先生の事は傷つけたくないもの。ちゃんとやるわよ!!
  「先生は毎日来てくださいね」
恋人なら、おかしくないだろうと思って、言ってみる。
  「!!」
が、先生は目に見えてビクッとした。
え?
  「あ、や・・・う、うん」
目の縁から頬にかけて、ぱあっと赤くなって、目を伏せる。
げ・・・・なに、この反応・・・・
ただの恋人っていうか、この人、私にベタぼれなの?
ってか、どういう設定なのよ?・・・・設定っていうか、関係なの?
私は思わずナルトを見上げた。
バカなナルトは、自分まで顔を赤くして、そっぽを向いていた。
時間は一瞬止まって、触れると壊れそうな沈黙が、延々と数秒続いた・・・・・

そのあと、二人とも連れだって帰ってしまったので、そのことはわからずじまい。
ちょっとだけ、今日、ナルトが来て説明してくれるかな、と期待していたのだが・・・・もちろん、任務入ってるよね。
でも、恋人のそんな微妙な部分までナルトが知ってるわけないよなあ。
そこまで考えて・・・・ゾッとした。
どうすんのよ、私!!
だって・・・・本当に何にも知らない。
付き合うきっかけも、どれくらい互いのことを知っているかも!!
もっと、リアルなとこで言えば、キスしたのはいつなのかも、いやいやいや、もう充分アダルトだから、どんなキスをするのかも、そ、そ、それに、どんなエッチをするのかも、そう、何もかも、知らない!!未知!!
どどど・・・・どうすんの???
・・・・ちょっとは今回のアクシデントで誤魔化せるしれないけど・・・・
なんか、急に、退院したくなくなってきた・・・・・
と・・・・

コンコンコン・・・・・


うっかりすると聞き漏らすようなノックの音。
その静かさに、意志を感じて、一瞬反応が遅れる。
どうぞ、と言おうとして、ほとんど喋っていなかった私の喉が掠れていることに気づく。
軽く咳払いして、やっと、
  「どうぞ」
と言った。
もう、頭はパニック。
だって、気配で先生だってわかってるから!!!
静かにドアが開いて、カカシ先生が入ってきた・・・・・
困った、困った、困った、困った、困った・・・・・
ナルトが一緒かもという僅かな望みも打ち砕かれ、先生は一人だった。
  「ナルトは?」
という私の開口一番のセリフに、ちょっと傷ついたような空気をかもし出して、
  「ん?任務。2~3日帰ってこないよ」
と言った。先生の空気は充分に理解しているのに、私は思わず露骨に困った顔をしてしまった。
  「なんだ。ナルトがいいのか?」
ひえええ・・・・・ち、違います、違います!!!
  「ち、違います!!違うに決まってるでしょ!」
  「(笑)へんなサクラ」
あ、笑った・・・・よかった・・・・
が、先生が躊躇無く間合いを狭めてくるので、私は体温が上がるのを感じていた。
緊張とかじゃなくて、心底困惑して。
上気している私の様子をどう解釈しているのか・・・・・先生は、キュルッと音をさせてベッドサイドの椅子を引き寄せ、それに腰掛ける。
綺麗な長い指が、柔らかい寝具の上に沈む。
思わず上体を起こした私に、
  「ねえ」
と先生が言う。
私が目を上げて、聞く意志を見せると、
  「触ってもいい?」
と、とんでもないことを言った。
え?え?え?え?え?
どこに?どこに?
パニックになった私が口を開けてパクパクと空気を食べると、その穏やかな様子のまま先生は、その手を持ち上げて、私の頬に触れた。
ひんやりとした感触が・・・・・混乱した私の肌に心地よい・・・・
  「心配した・・・・」
  「・・・せんせえ・・・」
  「火影が俺を諫めなかったら、自分の任務放棄しそうなくらい」
驚いた。
あの先生が・・・・・・
雷に打たれたように硬直した私の唇に、先生の唇がそっと触れてきて・・・・
優しく吸われて、柔らかい舌が入ってきて、初めてキスされていることに気づく。
あ・・・ああ・・・・あああ・・・・
せ、先生とキス!!!!
いくらもうすっかり大人な気分の私でも、「先生」としているという背徳感には・・・・・
なんか感じちゃってた(笑)
すごいよ、アクシデント前の私!!
なに、こんな反社会的なことしてんの??
でも、ほとんど同時に理解してしまっていた。
私は、私のことを知ってる。
先生が、どういう人間かも知ってる。
その二人が、こんな関係でいることを選んだっていうことは・・・・・
私は、自分から先生の舌を吸う。
先生の肩が僅かに反応して、それは、私をさらに感じさせた。

本当に、

本当に、

  「好きだよ、サクラ」

  「私も」

自然に出た返事に、もう、私は驚かなかった。











2010.11.28.

続きます
あえてご注意!!>サクカカです。サクラはあくまで攻!!