息がかかるほどの距離で会話して、ふっと至近で見た先生が素顔であることに、私は喉の奥でカエルみたいな声を出しそうになった。
キスしてるんだもん、当たり前じゃない・・・・・てか、マジ?
こんな近さで・・・・初めて見た・・・・
そりゃ、長いつきあいだもん、チラ見したことは何回もある。
いい男だってことはもちろん知ってたけど、こんなに繊細な、線の細い、端的に言うと綺麗な顔だったとは思いもしなかった。
私の中にあったはたけカカシの印象が、目の前の美形に塗り替えられていく。
それは、今までの先生と重なったり、離れたりしながら、でも、本質は変わっていない不思議な感じで。
我知らず、喉から「あ」というような息が漏れて、私がガン見しているのにもかかわらず、先生の柔らかい視線は変わらない。
それどころか、あろう事か、先生の視線は私の顔の上を、額から、目から、鼻、唇と移動していて、最後にまた私の視線に戻って、
「俺、ジロジロ見すぎだね(笑)、ごめんね」
と宣ったのだ・・・・!!!
「せん・・・」
「だって、嬉しすぎてさ。俺だって、自分の状況に驚いてるよ」
「・・・・・・」
唖然と黙る私の様子に、ふっと我に返ったように、先生は私の頬から手を離した。
そのとき、心の奥にキリリとした、痛みが走ったのは、気のせいじゃない・・・・
「また、来るよ」
「・・・・うん」
入ってきたのと同じくらい静かに、先生は出て行く。
ああ、なんだろ、この感じ。
身体の中から、なにか、言葉にできないものが溢れてきそうになる。
先生自身が驚く先生の状況にも、この言葉にできない何かはあるのかしら?
私は、文字通り心を奪われて、
「あら、真っ暗じゃないの」
と、看護担当者が入ってくるまで、時の経過を感じていなかった。
不意につけられた病室の灯りは目を刺激して、慌てて見上げた室外の空は、もう夜だった。
「大丈夫?」
気遣いの声を聴きながら、もう、完全に何かが変わってしまったことを感じていた。
やだ・・・・
私・・・・・
先生に・・・・
恋しちゃったわ・・・・・
◇
ナルトの困ったような顔が私を見ている。
眉の間に走った縦皺から目が離せないでいる私は、ナルトも、いや、ナルトこそ、いい男であることに今更気づいて、ちょっとにやけた。
「なんだよ、サクラちゃん・・・」
「いや・・・・てか、あんたってハンサムね(笑)」
「はああ?」
「背も高いし、なによりそのしっかりした目つきが男っぽい」
「からかうなよ。結局、先生を選んだ癖に」
あ、そうだ・・・・と心臓がキクンとする。
私はナルトから目をそらして窓の外を見た。
空の高いところで、風が音を立てて冷たい空気を運んでいる。
「サクラちゃんの記憶のことで悩んでいるのにさ」
ナルトはボスンと私のベッドの足の方に座った。
すねたような言い方が、その懐かしさで私の心をざわつかせる。
「そうだった。ごめんね」
「いや・・・・で、なんにも思いださねえの?」
私の脳裏に、二日前の先生とのキスがよみがえる。
昨日も先生は来てくれたけど、隊長と一緒だった。
それは、心臓を緊張でこわばらせていた私をホッとさせ、ちょっとガッカリもさせた。
でも、キスで互いの心を補給した今、二人にそれ以上の接触は必要がない感じがしていたのも・・・・ホント。
「ナルト・・・・あのねえ、」
「ん?」
「キスした」
「・・・・・先生と?」
「・・・そ」
「・・・・でも、記憶ねえんだろ?」
「だって、いきなりされたから・・・」
ナルトは目に見えて真っ赤になり、
「ちょ、あの、なんか、生々しいんだってばよ」
と突っかかりながらそう言った。
「生なま・・・・ちょっと!!なんか失礼ねっ!!」
「や、だって・・・いきなりとか・・・・」
ナルトの頭の中では、現実とは違うエロフィルターがかかっているに違いない。
「先生は紳士だよ。ちゃんと言ったもの、『触っていいか』って・・・あ、や・・・」
「さ、触る????」
「ちがっ・・・ああ、もう!!」
二人して、赤くなったり青くなったりしながら、全く進展しない「作戦会議」は、今日も中途半端。
入院はもう、あと三日しか残ってないのに・・・・
◇
2010.12.02.
続きます