鳴門の案山子総受文章サイト
先生は俺の顔を見ていて、それは、さっき窓の外から見た無表情に近かった。
先生だってたぶん必死だということに、どうしても実感が伴わない。
落ち着いて、何事も無かったかのようにそこにいるように見える・・・
「ナルト」
・・・・あ、呼ばれた。
見ると、先生の口がなにかしゃべってる。
無声映像のようで、俺の動揺は聴覚すらおかしくしていた。
あわてて耳を復活させる。
「なんでお前がそんなになってるの?(笑)」
わ、笑った・・・・
「恥ずかしいトコ見られたの、俺なのにね」
う・・・・
は、恥ずかしかった・・・んだ・・・先生・・
「ご、ごめんってば・・・」
「俺も気づけって話だよね、ホント」
はあああぁぁ・・・・
なんか普通に会話がすすみ、俺はかなり安堵していた。
困難はそう簡単に俺を解放するつもりなんかないって、すぐあとで思い知るにも関わらず。
先生はバフっとベッドに仰向けにひっくり返るとさっきみたいに、窓を見上げた。
先生の喉が、外の明るさに比してちょっと暗い室内で、なまっちろく見えて、俺は何故か唾を飲み込む。
「びっくりしたよ」
「は、はあ・・・」
「危なくお前の顔でイクとこだった(笑)」
・・・・・おいおいおい・・・
俺が絶句していると、先生は視線を俺に下ろし、ふふふと笑った。
「あ・・・お前でイッて欲しかったのか?」
!!!・・・・・・
「・・・どうしたナルト?黙っちまって?」
だだだ・・・そりゃ黙るだろう。
なんだよ、アンタ、本当にカカシ先生か?
俺は何となくムッとして、今度は本気で黙り込む。
窓から見たとき--------
先生は、本当に守ってやらなきゃいけないくらい、いじらしく見えたのに。
俺たちにとって、大人の、頼れる男だった先生が、なぜか、俺に縋ってもおかしくないくらい不安定に見えたのに。
俺を、驚くことなくただただ見上げた先生・・・・
う、やばい・・・・なんで俺、興奮してんの・・・?
なんだろ、あの時の先生を考えると、なんか、こう・・・・股間がやばくなる・・・・
なに、これ・・・????
渇いた喉を引きつらして、俺の顔はたぶん真っ赤だ。
ぶわっと額に汗がにじむのがわかる。
こんなとこで、こんな状況で勃つなんて、俺、ああ、どうしよう・・・
ごまかしきれないよな。
だって先生、俺の目の前だもん・・・・
勃ってるの、丸わかり・・・・
「ナルト・・・」
は・・・はいっ・・・
「お前、なに・・・それ・・・」
ひええええ・・・
「ごめん、ごめんてばよ、先生、俺、その・・」
俺はあわててとりなそうと先生を見る。
え?
先生も真っ赤だ。
俺の喉が無様に鳴る・・・・
風が勢いよく窓から入って、先生の髪が乱れた。
「よせよ、そんな・・・反応はさ・・」
せ、先生・・・・
「なんだか変な感じになるだろ」
や、どうしよう。
すっげー困る・・・・
先生は、すねた子供のような印象で、その肩は俺が抱きしめたくなるような風情だ・・・
「せっかく普通にしてたのに」
最後のほうは飲み込むように、先生が言った。
ああ・・・・無理してたんだ・・・
このとき湧き上がった「ぎゅっ」という心が引き絞られる感じは、窓の外で先生を見たときからずっと俺の中に続いている・・・みたい。
「先生」
俺が呼びかけるのと、手が先生の肩に触れたのは、同時だった。
先生の身体はピクリともしなかったが、その内面で、先生も思考がグルグルしているのがわかる。
俺の方を見たとき、まだその目は、なにも決断していない。
笑い飛ばせばいいのか、真剣に忘れてくれって言えばいいのか、たぶん先生も混乱してる。
動きのない先生のことをそうやって決め付けると、俺は先生を掴む手に力を入れた。
「俺で」
俺の喉から、俺のじゃないような声が漏れる。
え?と先生が反応する。
「俺でイって欲しかったってば」
先生の目が大きくなって、俺の奥で何かが動き出す。
「ナルト、さっき俺が言ったのは冗談だよ」
先生が慌ててそう言って場を取りなそうとする。その「普通っぽさ」が強烈に俺を揺さぶった。
「わかってるってば。でも、俺は本気なだけ」
俺自身、俺のセリフにもの凄く驚いて、でも先生がもっと驚いていたので、かろうじて俺は落ち着いた様を保てた。
先生は、僅かに唇を開いたまま、俺の顔をマジマジと見て、
「・・・なに?」
と小さな声で、つぶやくように言った。
ああ、頭に血が上る!!
急に外の音が耳に入ってくる。
大きく通りをうねるように流れる風は、街路樹の緑をザワザワと騒がせ、さっきまで、その穏やかな初夏の中にいた自分を思い出した。
先生の背後の窓を見る。
暗い室内の奥で、窓は、青い空をガラスのように綺麗に見せていた。
軽く、でも長く、息を吐く。
俺の心は逃げたいのに、勝手に身体が、口が、事態をどんどん推し進めてくれちゃって、俺はたっぷり1年分の汗をかいて立っていた。