いきなりケーキなんて食えるかという勢いで、サクラちゃんの(お母さんの)手料理を食い始める。
隊長は、空いた席を眺めながら、顔が溶けるように締まりがない。
「嬉しそうですね、隊長」
サイが、冷静な声で突っ込む。サイの野郎、わかってて言ってるんだぜ。
「え?あ、そうかい?」
隊長はニヤニヤして、
「そりゃあ、こうして、みんながサプラ・・・おっと、祝ってくれるわけだからね、嬉しいよ」
と、状況の誤解の上に、さらに俺たちへの誤解を上乗せしたセリフを吐く。
『今、サプライズって言おうとした!!』
ってサクラちゃんが俺に耳打ちする。
『ああ・・・空いている席からの連想だってば』
『カカシ先生は来ないってちゃんと言ったの?』
『くっきりはっきり言ったから、逆に誤解してるってば・・・』
『ホント、世話の焼ける・・・』
サクラちゃんが溜め息をついて、意外にその溜め息が部屋に大きく響いた。
隊長がちょっと硬直し、俺はあわててその場を取りなす。
「は、や、あのさあ、ヤマト隊長!!俺、カカシ先生に変化しようかな?・・・なんて」
「あら、いい考えね、ナルト!!そうだ、隊長、私もカカシ先生に変化します!!」
「仕方ないですね。僕も変化しましょうか」
隊長の返事を待たず、俺はカカシ先生に変化した。
ヤマト隊長の目が、俺を捕らえて、ゴッツ輝いた。
サクラちゃんも、変に色っぽい髪がピンクのカカシ先生に変化して、サイに至っては、中身はカカシ先生、服は自分のセクシーコスチュームという、明らかに何かを計算したかのような変化だった。
一瞬、目移りしてる哀れな隊長を拝むことができたが、すぐにつまらなさそうに、
「偽物がいくら集まったって、本物の足下にも及ばないよ!!」
と、俺たちがヘコムことを平気で言い放つ。
「隊長、言い過ぎだってばよ」
「だって事実じゃないか!!」
「じゃあ、このまま脱ぎましょうか?」>サイ
・・・・ほんっとにサイ君てば、怖いこと言うよね。
そして、隊長がこのとき発揮した、『自制心』の凄さは、称賛に値するだろう。
「いや・・・さすがに・・・遠慮するよ」
と言ったのだ!!
この時以来、俺らの間では『空意地のテンゾウ』と、尊敬と若干の呆れをもって呼ぶようになった。
さて、
パーティーという名の、夕食がすすみ、隊長が何かを決心したように言う。
「あのね、誕生日ってさ・・・・なんかあるよね?」
「なんでしょう?」
平気で返すサイに、俺は、ちょっとムズムズする。さすがの俺も、サイの前では思い切ってMになってみたいくらい、サイのセリフには、人間らしいオブラートがない。
サクラちゃんが慌てて取りなす。
「あ、隊長、そうよね、プレゼント、まだだったわね」
「そうはっきり言えばいいのに」>サイ
おいおい・・・
とまあ、ここで、プレゼントを渡すことになったわけだ。
「じゃあ、私からいきますね」
と、サクラちゃんが取り出したのは・・・・えええ?ダンボール??
「はい、どうぞ、隊長!!重いわよ?」
「え?あ、ははは・・・のっけから凄いな(笑)」
笑いながら受け取った隊長の手が、ガクンと大きく沈み、破壊的な音をさせて、ダンボールが畳にめり込んだ。その畳とダンボールの間に、隊長の左のつま先がサンドイッチされているのを、俺ははっきり見たが、なぜか見て見ぬふりをして目をそらしてしまった。
「隊長ったら!!重いって言ったじゃないですかぁ~~」
サクラちゃんがホホホホと笑う。
おいおい、サクラちゃん、君の怪力を考えたら、「重いわよ」なんていうかわいい表現じゃなく、きちんと【警告】すべきだったと思うけどね。
冷や汗を垂らして、隊長がありがとう、と呻(うめ)く。
こっそりと、しかし必死に足先をサンドイッチから解放しようとしている様が、また、見てはいけないもののようで、俺は、かろうじて吹き出すのをこらえた。
「サクラ、すごいね。それはなんだい?」
隊長の冷や汗と苦闘がまるで目に入ってないかのようなサイの発言。
「あは!!これはねえ~・・・・」
「なにかな?」
かろうじて何気ないふうを装って、隊長も言う。
「カカシ先生受け同人誌ですぅ~~」
うおおおお!!!
マジか!!!
「三年がかりで集めました!!」
「サクラ・・・・そんな大切なものを・・・(涙)」
隊長が、もう、つま先の骨折(それは確実だと思う)の痛みを忘れたかのように、喜々としてダンボールを開ける。
「うわあ~(喜)・・・・・」
と喜びの声を上げた隊長だったが、次の瞬間、
「嬉しい・・・てか、ナルカカばっかり(落)」
と、複雑な表情に変わった。
「や、ま、いいんじゃね?下の方にヤマカカ、あるみたいだってば」
「あ・・・そうだね!!」
と立ち直る。が、今度は俺の方にサクラちゃんの突っ込みが入る。
『ナルト、余計な事、言わないの!!』
『余計な事?何でだってばよ?』
『あの箱、下半分は、今までに売れ残った私の本全部、60冊くらい、詰め込んであるのよ!!』
『ひっで~~・・・同じ奴?』
『そう。30冊ずつ余ったからね。しかも、テウイビ』
『は?テウイビ?』
『テウチ×イビキじゃないの!!』
『マ・・・・マイナー過ぎるっていうか、マニアックすぎるってば!!』
『そうなのよね。作ってから気づいたのよねぇ・・・・』
『そんなの押しつけて、ゴミ処理代が浮いた勘定だってば・・・・』
『いいのよ!!言ったらただじゃおかないわよ!!』
・・・・・・かわいそうな隊長だってば。隊長の指をつぶしたのは、サクラちゃんの在庫だったなんてね。(しかもテウイビ)
「ありがとう、サクラ。もったいないから少しずつ読むよ」
「いえいえ、そんなに喜んでいただけて、嬉しいです」
女はこええってば。
「じゃあ、次は僕ですね」
とサイが、鞄をゴソゴソ探す。
「僕のも、きっと喜んでいただけると思います」
そう言ってサイがニッコリ笑った。
2009.08.10.