鳴門の案山子総受文章サイト
薄曇りの空は、少しずつその灰色を強め、ついには雪が落ちてきた。
「あいにくの雪ね・・・・いや、ナイスタイミングなのかしら?」
詰め所にいたサクラちゃんが俺を見つけて手を振る。
「ホワイトクリスマスよ、ナルト」
年末にあえて任務を入れた俺に、みんないたわるような目差しを向けている中で、フル装備な俺をいたわって、そんなことを言ってくれる。ホント、優しい人だよ。
そう、今日はクリスマス。
きっちりはっきり断られ続け、いくらしつこい俺でも、一年という時間はやっぱり長い。
ああ、もう、一年も経ってしまったんだなあ~
その時間は、俺を受け入れてくれない先生のせいなのに、なんか「しくじってしまった」ような、取り返しがつかないなにかを永遠に失ったような・・・・こう、後味の悪い感じを俺に味わわせた。
俺は、強くなりつつある雪の中に飛び出した。
頬に当たる雪が溶けて、チリチリと痛い。
そして、今、もう一つの感じが、俺の心に湧きつつある。
つまり、なにか・・・そう区切りたい気持ちだった。
俺は、一年という時間を、区切りにしたかったんだと思う。
なんでもハッキリが好きな自分にしては、この、雪空みたいな曖昧な一年は長かった。
でも、先生は・・・・・大事な仲間だ。
俺の唯一になってくれなくても、それは変わらないし、変えたくない。
俺は、ちょうど一年で、この、沈滞した空気を抜け出して新たに進むべきだ。
積もりはじめた雪は、俺の足を柔らかく受け止める。
俺は、すべてを吹っ切るように走り続けた。
◇
薄暗い小屋の中で、俺は、ぼんやりとこれからを考える。
いつか見た雪明かりみたいに、灯り取りの窓から細く光が差し込んで、それが床板にぼんやり光の輪を作っているのを見ていた。
此処は、先生とのコトがあった、例の小屋だ。
寒かったけど、いろんな感情が渦巻いている俺の身体は熱くて。
射すような寒さを感じる皮膚の下は、じっとりと汗ばむくらい、熱を帯びている。
進むしかない。
それしかない。
俺は頑張った。
でも、人の気持ちなんて、どうできるモノでもない。
あの夜の先生の事は忘れて、俺は生きる。
先生ことも含めた里を愛することで、俺は、満たされる・・・・・多分。
それが、今をしのぐためだけの、俺自身に対する欺瞞でもいい。
いつか、本当になる。
本当にする。
「ナルト」
それで、いい。
時間の効用は、知っているつもりだ。
自分の心だって、騙し続ければ、嘘を信じるさ。
「ナルト」
俺は、それでいい・・・・
え?
目の前にあったはずの窓の光の輪が、影になっていた。
俺は慌てて顔を上げる。
窓に先生がいた。
月に照らされて淡く光る雪を背に、額当てを外して、髪を乱して、先生がいた。
俺の中に一杯に詰まっていた、嘘や、説得や、本当は納得できない理屈やらが、一気に吹き出しそうになる。
「せ、・・・・」
俺は立ち上がり、結界を解く。
ふっと、本当に雪みたいに、先生が入ってきた。
ひんやりした空気が動く。
理屈もない。
理性もない。
なんの言い訳もない。
俺は、先生を抱きしめていた。
これは、去年の、あの時間のトレースなのか?
理解より、納得より、なにより、俺の本当の、本当の、大事な気持ちは、先生を抱きしめていて。
「ナルト、苦しいよ」
と言われて、それでも我に返るのは、俺のなけなしの理性の半分だけ。
「先生!先生!・・・・せんせ・・・」
「お前も任務なの?」
「先生がいないのに、里にいても意味がない」
ああ、俺の「本当」はどうしてこうも・・・・口が軽くて、あの苦しい決心もあっさり反故にして、ああ、どうして・・・・
「お前の本気は・・・・」
「なに?」
と言いながら、あろうことか俺の口は先生に口づけようとしている。
「怖いよ」
「マジなもんは、すべて怖いだろ」
否定されることに慣れた俺は、このとき先生が
「そうだね」
と同意したことに、本当は一番驚いていた。
◇
偶然なんかない。
いつか誰かがそう言っていた。
じゃあ、俺は、信じていいのか。
俺の気持ちだって、多分、先生の空気が受け入れてくれていたから、溢れたんだ。
先生は俺の強い抱擁から逃れて、窓のある板壁に寄りかかって俺を見る。
「まだ無理だったのかなあ、ナルト」
「何が?」
「どうして、そう、俺を追い詰めるんだ?」
「追い詰める?・・・ってか、何が、無理?」
「俺の立場で考えてよ、ってこと」
ちょっと考えた。でもすぐ諦める。
そんなこと、理屈ではわかっているし、言われるまでもない。
でも。
本気って、そういうもんじゃないだろ?
俺の目線に、
「やっぱり無理みたいだね(笑)」
と先生が笑って、そんな僅かな動きにも、俺の情感は激しく揺さぶられた。
「俺は、猛烈に腹が立ってるよ、先生」
俺の両手は先生の肩を掴んで、でも、先生も拒否らない。
「一年間も、俺に嘘をついてきたんだろ?そういうことだよね?」
「嘘じゃないよ、ナルト」
先生はずるい。
俺の腕の下から、自身の腕を回し、今は俺が先生に抱擁される。
「口で話した事は、社会的俺の「本当」だ」
煙に巻かれるのをわかっていながら、俺は、もう何も言えない。
「今、こうしているのは、「カカシ」だよ」
「先生・・・・」
「もう、それでいいや」
先生が投げやりに言って、それはドキンとするほど、俺と変わらない等身の同僚の感じで。
「俺だって、こうして来てしまったし」
「逢いに来てくれたの?」
「そうだよ」
その肯定の一言に、俺は、皮膚が痺れるくらい感激した。
ああ、もう、どうしてこう・・・・
「俺の居場所、どうしてわかったの?」
「俺だって、色々悩んで、去年のこと後悔してたんだよ」
質問から離れた回答も、先生の気持ちが込められていて、心地いい・・・・
「なかったことにしたかったんだ。だから、ずっと逃げてたのに」
「・・・・・」
「なぜか一年逃げ切れればって思って。これが最後の悪あがき(任務)だった」
「・・・・・」
「勘だよ」
「かん?」
「お前が此処にいるような気がしただけだ」
やっぱり偶然はない。
・・・・・・・
続きます 2012/01/08