鳴門の案山子総受文章サイト
先生は、そこまで一気に俺と会話すると、そのあとは黙って部屋に立ち尽くす。
気づくと、多分普通ならガタガタと歯の根もあわぬほどの寒さなのに、俺は身震いもせず、先生の空気のままに、立ち尽くしていた。
窓の雪明かりがぼんやりと綺麗で、俺は「今夜」を思い出す。
「クリスマス」
俺の掠れた声が乾いた空気に溶ける。
「ん?」
「去年もクリスマスだったんだ。いや、正確にはイブだったけど」
先生はフッと笑うように息を吐いて、
「覚えてるよ」
と言って、今度は本当に笑んだ。
それは、自分の中の何かを見つめて、俺の知らないことで笑ったみたいだった。
「なに、笑ってるの?」
いや、と言って、先生がこっちをまともに見る。
「お前・・・さ・・・」
先生の言いかけた言葉は、そのまま俺の中で響く。
言葉尻を飲み込んで、目だけで俺に問いかける先生を事を、数時間、いや、数分前の俺なら「ズルイ大人」だと断罪したに違いない。
でも。
先生が、自分と等身大に感じられたさっきの感覚がよみがえる。
悩んで、苦しむのに、立場や生きた年数なんか、きっと関係ない。
いや、俺より、いっぱい考えたよな、先生・・・・・
俺は、
「うん」
と笑い返して、先生の方に手を広げて、見せた。
到底、先生なんか、この腕の中に飛び込むなんてマネ、できないよね(笑)
が、先生はスッと俺の方に近づくと、
「俺の本気も見誤ったね(笑)」
と言って、俺の身体に腕を回した。
げっ!・・・・
「暖かいな、お前」
先生が、くつろいだ声を出す。
・・・凄い。
さっきまでは単なる同僚の探り合いだったのに。
なんだろうこの感じ。
今は、先生はずっと前から俺のいい人みたいな感じに、なっていた・・・・
俺も負けずに先生を抱きしめ返し(負けずに、になってしまう事が、やっぱり俺と先生だ)、「先生も温い」と言った。
「ナルト、まだ、俺、クリスマスだけの夢みたいって感じてるよ」
へえ~。「だけ」を強調してる。
ちょっと我に返るな。そういうとこ、やっぱり俺と違う。
でも、そうだな、せいぜい思ってりゃいいさ。
「俺についてきてよ、先生」
先生の首筋の匂いを嗅ぐ。痺れるように冷たい空気の中で、先生の体温はオーラのように先生の皮膚を包んで、ほんのり甘い。
先生も、俺の鼻に自身の鼻を寄せて、言い聞かせるようにつぶやく。
「一夜の夢と思う、俺の切なさを理解しろ」
「あんまり往生際が悪いと、俺、勝手に行っちゃうよ?」
言って、首筋をちょっと舐めてみた。チリリと舌が冷えるが、でも肌は凄く熱い。
「いいよ。俺は夢の中だから」
その言葉に、微かに吐息が混じっているのを知って、俺の身体に、勝手に、そう、勝手に火がついた。
「あ、ナルト」
と、途端に先生が慌てた声を出す。
俺は応えず、無言で先生の首を舐める。
「お、俺、任務中なんだよ?」
「俺もだよ」
「ちょ・・・」
「此処に来るんだから、それなりの余裕と覚悟があるとみる」
「ばっ・・・ははは・・・」
先生は怒りながら笑う。
その感じは、仕事中の空気なんか微塵もなくて、先生の任務が本当に大変で、年明けまで続いているということを知ってはいても、もしかしたら、全部終わらせてしまっていて、俺に逢うためだけに、今、ここに来ているんじゃないの?と錯覚してしまう。
「ホント、俺に無理させる」
「してるの?」
「実際、俺は、もう仕事に行きたいんだ」
「や、それ・・・」
「でも、それじゃ、お前、納得してくれないだろう?」
「あたりまえじゃん。夢でいいなんて言われたらさ」
長く付き合った恋人同士の戯れ言みたいに、会話がコロコロと転がる。
俺が深く息をついて、先生を抱きしめ直し、ひたすらその体温に没していると、先生もようやく決心がついたらしかった。
「ナルト」
「ん?」
俺がふと顔を上げると、先生がそっと口付けてきた。
いいの?と言いかけた無粋な俺の呼吸も吸い取って、先生は本当にキスが上手だった・・・・