鳴門の案山子総受文章サイト
先生が触れた、俺の生きている右手が疼く。
自分の細胞でありながら、こいつの来歴は、特殊な術と治療だ。チャクラを意識的に纏わせないと、箸を持つことすら、実はできない。もちろん、もう慣れてしまった今では、いちいち意識するようなことじゃない。ただ、九喇嘛を失ったことで、色々変わってしまったことは確かだ。
減ってしまったチャクラも、どこか欠けた心も・・・
暗くなった病室で、俺はさらに暗い天井を見た。
「九喇嘛は・・」
我知らず、喉から声が漏れた。
耳が聞いて、自分が声を出していると知ったが、どうでもいい。
俺の中に、感情が溢れる。
九喇嘛は、俺と先生とを結びつけてくれた、唯一の存在だったのだ。
「九喇嘛は・・・大事だった」
おかしな文でも、構わなかった。
俺は感じるままに感情を吐き出す。
みんな言ったよ。
親としては人でなしだって。俺は人柱力にされたかわいそうな子供だと。
でも、本当の事は、俺が知っていればいい。俺は器にされたんじゃない。親父と母さんが命をかけて、俺に九喇嘛を与えてくれたんだ。俺とあいつを引きあわせてくれた。
そのせいで・・・・
「本当に散々だったな・・・」
俺は笑う。
散々で最高な毎日だった。
九尾の真実を知らない人たちからの阻害や虐めも、ものの数じゃない。
本当に俺が恐れたのは、
「親父の期待に応えられないことだった」
その中には、サスケを取り戻すことや、里を守ることも含まれる。
そして何より、
俺自身が生き延びること、だ
涙が出てくる。
それこそが、何よりの親の思いであることは、自分が親になった今、一番良くわかる。
自分の命より大事な子供に、九喇嘛を入れたのだ。
その時の、親父や母さんの覚悟を思うと、俺は祈りたくなる。
俺がどれだけ愛されていたか。
そして、その存在は、当たり前に、カカシ先生との出会いの流れでもあった。
(参照➡️「たった一つ望むこと・ナルカカ」)
九喇嘛を入れた俺の、若い欲をコントロールするために、先生は里から命令されたのだと、俺は思っていた。でも、今ではわかる。暴走した九喇嘛を制圧するのは、先生でも無理だ。それはつまり・・・
また涙が出てくる。
先生の中に、親父の存在があるのは確かだ。
自分の師が命がけでやったことを目の当たりにして、先生なりの覚悟もあったと思う。だから、先生も静かに決めていたんだと思うんだ。何かあれば、自分の命で、破滅をいくらか先に引き延ばそうと。
親父が生かそうとした俺を守って、自分は死ぬつもりだったんだろうなあ。
ちょっと前までは、理解できなかった色々が、今の俺を苛む。
無謀だった。
馬鹿だった。
でも、
「こうとしか生きられなかった」
先生。
先生。
「せんせ・・・」
感情と肉体の愛おしさが綯い交ぜになる。
嗚咽が漏れて、でも、身体は興奮する。
多くの愛情を感じて、でも、火影で、夫で、父である自分を甘やかしてくれる存在は、もう、いない。
俺は圧倒的に強い火影で、家族の中心で・・・
「ああああ・・・」
声が漏れる。
甘えたい。
本気で思った。
「先生・・・」
先生も、火影だった先生も、こんな重圧を感じていた?
でも、もう、以前の様に、抱きしめてはもらえないよなあ。
俺が家族を作ってから、先生は静かに俺から離れた。
俺は、かわいい愛に夢中になって、そしてそれは本当に凄まじい力だった。負けそうな俺を、生死を問われる深刻な状況にいる俺を、精神論なんかじゃない、そのリアルな存在感でヒナタは救ってくれた。そしてもちろん、子供達。
里のためにはいつでも死ぬが、家族のためには命をかける。
種類の違う沢山の愛に恵まれ、励まされ生かされ、でも、それを束ねているのは、
「俺自身だ」
この、世界に比してちっぽけな有機体。
吹き荒び、荒れ狂う世界で必死に立つ。
だから、先生・・・・
カカシ先生・・・・
俺には、いま、先生が足りない・・・・