熟れる 6

夢だ。

わかっている。

先生が、こんな風に、俺に中身をぶちまけることなんてない。

何度も寝た。

それは、複雑な過去ってやつを持つ俺のストレスのためで、それは、単なる成長期の欲求に過ぎず、それは、感情とは無関係のフィジカルなことで。

「ナルト」

何度か、確かめ合うような瞬間があったにも関わらず、俺は意志を持ってそれを確認しなかった。その瞬間が何度も訪れると、若かった俺は、理由もなく信じていた。

先生を抱きしめる。

先の事なんか、わからないのに。

こうして抱きしめることのできる存在は、そう思えばこそ、なおさら奇跡だった。

俺は慈しむ。

先生の滑らかな頬の感触を、左目を大きく貫く全ての始まりを。

今、確かだと感じ、今、手の中にあるとわかっていても、それは、先生が、生き抜いてくれたからこそ。俺が、世界を諦めきれず、他者から見たらみっともなくしがみついたように見えたろう足掻きに、俺自身が意味を越えた意味を見いだしたから、こそ。俺は、自分の人生を捨てなかったんだ。

「ナルト」

先生の柔らかい声は、俺を興奮させ、俺を泣かせた。何度も何度も、その唇を吸い、舌で先生の歯列をなぞる。身体の奥底から、わけのわからないエネルギーが噴き出しそうで、キスの合間に、深呼吸した。

「どうした?」

「わからねえ」

わからないと言いながら、わかっていた。俺の感情が、今、すべて俺だけのものになって存在しているということ。腕を突っ張って、身体を起こす。先生の肌と離れても、俺と先生の身体の間にできた空間に、二人の体温が溶け合っているように暖かい。

上から、先生を見る。

好きで、大事で、俺の人生のほとんどを、この人と歩いてきた。

今にも制御不能になりそうなくらい暴れているわけのわからない衝動は、生きていてはじめて感じる、俺だけの感情。俺の見開いた目を、先生は見上げていたけれど、その瞳は確かに俺を理解していた。俺の腕を、優しくさすっている。

「先生」

「なんだ?」

「好きだよ」

先生が頷く。

「やっと言ってくれたね」

「何度も言ったよ。でも・・」

それは俺だけの気持なのか、純粋な「好き」でまとめていい気持ちなのか、いつも不安だった。

「でも、もう、不安はない」

「うん」

「九喇嘛がいても、いなくても、」

「・・・」

「これは俺の本当の、純粋な俺の思いだったんだ」

俺の顔はよほど嬉しそうだったらしい。俺につられた先生も、その可愛い笑顔をもっと可愛くして、思わず漏らしたような声で、笑った。

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