熟れる 7

ナルトの手がオレの顔を両手で包む。

ずっと遠い前のオレだったら、自分の自尊心のために、ちょっと眉間に皺を寄せて、いやいやをしただろう。

そんなことで、どうして自尊心が守れると思ったのか、自分の若さに苦笑する。

ナルトの手がゆっくりオレの頬を撫で、その手が滑るように首筋にも触れた。ゾクっとする、皮膚感覚の跳躍は、オレの目を細めさせ、感じ始めていることを素直に吐き出した。

「ああ」

とナルトが、制御できない感情に突き動かされたような深い息を吐いた。

オレがその目を見ると、困ったように眉をしかめて、

「可愛すぎて、どうにかなりそうだ」

と言った。

「世界の人たちの嗜好が、お前くらい幅広かったら、世の中は平和だろうにな」

「どういう意味だってばよ?」

「お前の「可愛い」は特殊過ぎるってこと」

ナルトも変わった。オレのそんな言葉に、昔みたいにムキになって反論しない。

「そんな認識が甘いところも、可愛いから参る」

「勝手に負けたな」

「ああ、先生に負けた」

言って、ナルトは固くなった股間をオレに押し当てる。心もち、それを動かしながら、自分の興奮を静かに上げている。押し付けられた熱いものは、衣服越しに、オレを欲しいと主張しているようで、今のオレは実のところ、それだけで、もう半ば満足している。

「覚えてるかな、俺の、これ」

下世話なセリフも、ただの愛する言葉。慈しむ感情。

「忘れられるわけないだろ」

ああ、ナルトは素敵に単純だ。オレの返事に、一気にあたりの空気を「幸せ」で満たした。

「ホント?!」

キラキラしてる。

「ああ」

返事ごと、オレは顔を上げると、ナルトに口づける。キラキラして喜んだままの形の唇に、口づける。

一瞬、動きを止めたナルトは、急に真顔になって、オレの上に体重をかけてきた。

熱いもの同士が触れ合って、痺れるような痛みを感じた。

「ここで・・・いい?」

言いながら、すでにナルトは自身の上半身を脱ぎ、その姿が、執務室の暗い窓ガラスに映る前に、綺麗な流れるような術式で、完全な結界を張った。よほどのクラスじゃないと、結界が張られていることすら気がつかないだろう。

「悪い事って、興奮するな」

ナルトの手が、オレの着衣を脱がせる。火影室で、という後ろめたさはあったが、どうせ夢だ。そしてこれが夢なら、自分の中にこんな場所で行為に及ぶ事に対する欲望を認める方が恥ずかしい気がした。

下半身のボトムが、優しく、でも勢いよく引き下ろされ、ナルトが、オレの足を赤ん坊のおむつを替えるみたいに、片手で上にあげる。その足先から、すべて取り去ると、ナルトに丸見えになっているだろう臀部の皮膚が、空気の静かな温度を感じる。

ナルトの手がオレの尻をなで、そこに顔を近づけたかと思うと、肉にかじりついた。ビックリしたが、噛まれたところから、くすぐったいような甘いしびれが上がって来て、オレは呻く。

「あ、あ、や・・・」

ナルトは、そこを歯で軽く噛んで、舐めて、唇で愛撫する。もう、身をよじってしまうほど感じる。

オレは考える。

強くありたいという、忍者であれば尚更な当たり前と、与えられる刺激に震えて反応する自分の性器を曝して平気であるという自分の内面が、ナルトの前だと平気で両立するということを。

思わず身体を横に捻って、快感から逃れかかるオレの腰を、ナルト自身を救った右手が優しく抑え、その安定感に、オレの身体が勝手に安心する。そしてナルトの左手がそっとオレの性器に触れ、オレの中の性的に依存する、オレ自身良くわからない感情が皮膚の中に満ちた。

「ナルト・・・」

思わず声が漏れて、オレの、もしかしたら浅ましく見える心中の媚態が一緒に溢れた気がした。でも、ナルトは、それまでの真顔を少し緩めて、

「やっぱ、可愛いな、先生」

と乾いた喉で言う。オレの下半身を両手で抑えて、ナルトがその上体を倒し、オレの顔にその顔を寄せた。オレは視線を流してその目を見る。ナルトが、本当に愛おしげにオレを見た。ナルトにそんな顔をさせる要素が、オレの中にある事にいつも新鮮に驚く。オレは顎を上げて、ナルトの静かに興奮する口づけを受け入れた。

「先生っ」

と言いながら、ナルトはその言葉を二人の舌の間に溶かす。オレも、音のならないナルトの名を呼びながら、口中に入ってくるその舌を甘噛みした。体温が上がって、ナルトもオレもその口中は熱いのに、唾液は少し冷たく口角から流れ落ち、オレの耳まで濡らした。ナルトが濡れた唇をオレの頬から耳、首筋と、丁寧に愛撫していく。それは、なにか術でも使っているのではないかと思うほど、オレを感じさせる。皮膚は、ナルトから与えられる刺激に耐えきれず、オレはナルトの身体を押し返そうとした。が、ナルトはビクともしない。同時に、今のナルトにはない身体の厚みを感じた。

「あ、や・・・もう・・」

オレの哀願に、ナルトは拘束を強めることで応える。体重がかかってきて動けない。ナルトがオレの耳を舐める。

「優しくしてるってばよ」

「や、そうじゃ・・な・・」

「感じるの?」

「ナルト!」

ナルトの左手が、再びオレのソコに伸ばされて、それをそっと握る。ナルトの明確な意図を持った動きは、世界が進む時間を刻むように、繰り返し何度もオレに、二人の行為の意味を問いかけてくる。

今しているのは

オレが、いま、ナルトとしているのは、なんだろうと。

「先生」

ナルトの声が、オレの耳に熱い。

愛だけで、身体が高まる自分が、進行形なのに、理解できない。

肉欲は、もっと下世話で、隠微で・・・・

「先生」

ナルトが言う。その手が、気遣いながら優しくも刺激的な動きでオレを煽る。

「セックスって凄いってばよ」

「え?」

「いろんなものを奪われても」

何だ?

「生きていれば」

ナルト・・・お前は

「こうして全身で愛してるって言える」

「ふ」

思わず高まった性感が、オレを緊張させ、危うくいきかけた。

多分、気づいているナルトは、オレを抱きなおし、はあ、と深く嘆息する。

「生きていてよかった」

そう呟いて。

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