終わること




夏が終わる。

まだ空気は熱を持って、乾いた地面を覆っているけど、青い空は、いつの間にかずっと高くなって、宇宙の闇を映していた。
透明な色が空を突き抜けて、見上げて見飽きない。


生きているってことは凄い


ヤマトは、もうあちこちで立ち上がっている復興の音を聴く。
ナルトの活躍。
誰も欠けなかった7班。
自然にその結果は、ヤマトを笑ませる。

小休止をとり、勘を頼りに歩く。
すべてを山のように覆っていた瓦礫も、今は、人や荷車が通れるくらいに除けられて、道ができていた。
ひときわ瓦礫が小高く積まれた一角があって、
  「ああ・・・ここか」
とヤマトは立ち止まる。
大きく空に伸び伸びと枝葉を茂らせていた、ブナの木は、今は根本から折れていた。
ベンチだけがその陰に無事だった。
ベンチの前に広がっていた、穏やかな風が遊ぶ広場は、今は瓦礫置き場と化している。
ヤマトはベンチに座る。
ここで、カカシと話をしたのが、もうずいぶん遠い記憶のようだ。
足を伸ばす。
気持ち良く伸びて、姿勢が空を見る。
倒れてもまだ葉を伸ばすブナが、宇宙を彩り、ヤマトは深く息を吸った。

カカシは何も話さない。
あの破壊の中で、どんなことがあったのか、自分から話そうとはしなかった。
チョウジというナルトの同期が一緒だったらしいから、そのときのことを知ることはできるだろう。でも、カカシが話さないなら、それでいいと思っていた。
みんなで無事を確認し、とりあえずやるべき事を決めた後、何度かカカシの側で過ごした。
体調が不安定なカカシについていることは、特に目立つ事でもなく、余計な言い訳や神経を使わずに済んだ。
ただ、側にいたのは、ヤマトの気持ちで、カカシの気持ちは知らない。
それでも、ヤマトはカカシの所に通い、数日を一緒に過ごした・・・・・





  「体調は、いかがです?」
縁側に座るカカシの背に声をかける。
白っぽいパジャマを着たまま、縁側に腰掛けて、庭を見ているらしい。
まだ夏だったが、確実に夜の空気は秋を含んでいた。
鳴く虫の声も、涼しげに聞こえる。
  「ああ・・・」
そう言って、あとは虫の声。
暗部時代は、その夜着の中を何度も抱いた。
互いに若くて、いろんな悩みも、困惑も、失敗も、滅茶苦茶にエネルギーを垂れ流せば、それで済んでいた。
今でも、死にそうになった任務の後の狂態は忘れない。
  『やばい、俺、左腕折れてるって』
利き腕じゃないことに感心して、叫ぶ喉に喰らいつく。
  『僕だって肋骨いってますから』
じゃあ、俺が上になると言って、面を割った美青年は、テンゾウの上にまたがった。
グチャグチャに血と泥が飛び散った暗い背景に、カカシの脱衣したばかりの下半身は目が眩むように白くて、その中心の性器の色は、血のように生々しかった。
  『痛い!』
叫んだのはテンゾウだった。
  『ははは・・・ごめん!うまくいかないな』
大きく口を開けて笑う様は、ゾッとするほど異常で綺麗だった。
写輪眼が開きっぱなしで、でも、失うチャクラも、もう無かった。
  『木遁で固定するから大丈夫です!!』
固めさえすれば、肋骨は動くには支障なかった。ただ、荒くなっていく呼吸は、どうしようもなく、テンゾウは脂汗を垂らしながら、カカシを抱いた。

あの人なんだろうか。
静かな背中は、そういうことからずっと遠い、いっそ癒えない病人にすら見える。
  「ねえ」
ぼーっと見ていたので、いつの間にかカカシが振り向いていることに気づかなかった。
  「あ、はい」
カカシはヤマトを隣によぶ。
言われるまま隣に座った。
  「何度も死にそうになったよなあ」
同じ空気の中に居ると、同じ事を考えるんだろうか?
でも、カカシはただ、死にそうになった任務について話している。
  「ええ」
返事をして、やっぱり今回の戦闘で、カカシは酷い状態になったのだろう、と思った。
  「何度もヤッたよな、お前とも」
  「え?」
  「ふふふふ・・・・」
  「ああ・・・・はい」
この人も、死にそうなその任務の後のことも、考えてた。
  「若かったよね」
  「今でも若いですよ、僕ら」
  「そうだけど、あんな無茶は、もう考えただけで萎えるよ」
ヤマトは笑った。
  「ねえ」
  「はい?」
  「あんな激しくなくていいから」
  「・・・・・」
  「抱いて欲しいなぁ・・・・」
  「先輩・・・・」
虫の声が一瞬止まる。
カカシを見るヤマトの固まった身体に、腕を伸ばして、それは、やっぱり男の逞しいそれだったが、黒髪を梳く優しい動きをした。
  「疲れてる?かな」
  「いや・・・」
先輩こそ大丈夫ですかと聞き返したかったが、そっと抱けばいいんだ、と思い、髪に触れるカカシの手を取った。
カカシが伺うような目差しを向けてきて、ヤマトはありったけの勢いと感情を込めて、カカシを抱きしめた。
  「ああ・・・」
カカシの声が漏れて、ヤマトの耳にかかる。
  「ごめんな、テンゾウ」
何度言ってもテンゾウだ。
テンゾウは、応えず、より力を込めてカカシを抱きしめた。
  「俺、ただ、泣きたいだけ・・だ」
そういう語尾は、もう微かに震えている。
何も聞かない。
何も聞けない。
でも、溢れた感情は・・・・すべて拾い上げてやる。
  「いいですよ」
懐かしい匂いをかぐように、首筋に顔を押しつける。
自分の役回りは、十分承知している。
僕がいるから。
いつも側にいるから。
あなたは、ナルトを見ていて・・・・
ずっと支えになってあげてください・・・・

い草の香りがする部屋で、カカシを抱いた。
あの時折れた左腕も、
テンゾウが事情を知らない左目の傷も、丁寧に舐めて、こぼれる感情を拾い集めた。
いつの間にか、虫が騒がしく鳴いている。
腕の中のカカシは、大人しく、何度目かのキスで、はじめて涙を流していることに気づいた・・・・





ヤマトは立ち上がる。
目の前を、手に手に作業道具をもった里の人間が元気よく通り過ぎた。
あの夜以来、カカシと二人きりで逢っていない。
あの時。
まだ、夢の中にいるらしいカカシを置いて、早朝の冷えた空気の中、帰ってきた。
政局はめまぐるしく動き、カカシとのあんな時間はもう、あれが最後かも知れない。
乾いた地面を歩き出す。
ホコリが立って、ジリジリした熱さが足を焼く。

カカシが欲しくて、彼を独占したくて、それがエゴでも、若い自分は躊躇しなかった。
憧れが形を変えても、かまわなかった。
  「でも」
ヤマトは一人笑う。
  「結局、正しかった」
今は、こんなに穏やかに、カカシを見ている。
  「これが、愛っていうのか」
自分で言って、照れてみる。
照れるついでに走り出し、汗をかきながら、空を見上げた。

やっぱり、高い・・・・

夏は終わったんだ。

駆け抜けるヤマトの背に、声がかかる。
  「テンゾウ!!」
また、テンゾウだ。
振り返ると、離れた所にカカシが立っていた。
僕が知っている写輪眼のカカシだ。
  「あとで会議だぞ。7班に知らせといて」
泣いてたくせに。
ヤマトは笑うと、
  「はい」
と空に声を返した。



2009.07.12.

無謀です。最近、原作読んでません。ネットで情報を拾って書きました。変なところがあったらごめんなさい。