15 パンク [ヤマカカ]


真剣な人って、なんでか愛しい。
たとえば・・・・
目の前のカカシ先輩、とか。


ストーブに乗っけた蒸発用の器が、遠い所で響いているような鈍い沸騰の音を立てて、午後3時の溶けるようなだいだい色の中、僕は睡魔にしつこく絡まれている。
仕事はある、6時から。
多分、このとろける空気が夢に感じられるくらいの、外気も内容も氷点下の仕事。
でも、僕の正義は、里の正義のプリントだから、考えることはしない。
もちろん先輩も。
だから、ナルトには、本当に期待している。


カサっとか、シャリっとかいう静かな音は、先輩が、紙面に鉛筆を走らせる音。
ストーブの前でうたた寝していた僕の前に、遅れて先輩がやってきた。
仕事は、先輩と2人。
僕が露払い、先輩が・・・・。
まあ、呼吸するように済むだろう。
と。
う~んとかいう先輩の声が聞こえて、僕はストーブ越しに先輩を見る。
図面らしきモノを見て、なんか真剣に悩んでた。


銀髪に、オレンジが溶け込んでいて、ストーブの火で、頬が赤い。
無意識に舐める唇が、乾燥してちょっとささくれているのが痛々しい。
そりゃあ、この人の真剣な姿なんて、何度も見てる。
でも、任務中は、真剣+カッコイイんだよね。
自分自身と、任務で組む相手に対する絶対的な信頼が、この人の動きを完璧にする。
着地に失敗して土に手をついたときですら、映画のワンシーンのように格好良くて、僕は、何度も嘆息した。
でも、今はそんな風情とは違う。
例えるなら、字を覚えはじめた子供が、一生懸命ノートに字を書いている様に似ていた。


  「珍しいですね」
仕事前の予習なんて、ほとんど初めて見る。
互いの知識ですべてカバーできているハズだから、先輩が暗いところは僕が段取りをするし、その逆もある。
  「相手が僕じゃ、心配ですか(笑)」
もちろん冗談のつもりで言ったのに、
  「相手?これは、お前でもダメだろ」
と真顔で言ったのにはびっくりした。
え?
僕は、だらしなく座っていた椅子から身体を起こし、先輩の手元を見る。
  「見せてくださいよ」
  「ほら」
と渡されたのは、数字の羅列の、穴埋めパズルだった。
  「パズル・・・」
  「ナンクロっていうんだ。難易度が高くなると、初めの数字が少なくてさあ、」
  「・・・・・・」
  「これ、3級なんだって。まだ時間あるから解けると思ったけど、意外に難しい」
一気に話し始める先輩の顔から目が離せない。
  「もう3日くらいやってるよ。頭の中、数字だらけ」
その表情があまりに無邪気すぎて、僕は、リアクションに遅れた。
僕のガン見に、先輩は明らかに「ハッ」として、見る見る赤面する。
  「悪かったな、地味な趣味で」
言いざま、僕の手からパズルを取り返す。
そのちょっと尖った唇が、目に焼き付く。

やばい。
僕の顔も、蒸発皿並みに沸騰しそうだ・・・・・

先輩は顔を背けて立ち上がり、
  「やばい、やばい、仕事仕事。切り替えよう」
とか言って、僕を悶えさせる。
この人、仕事以外では、どうしてこんなに愛しいかな。
紙をたたんで、ポケットにしまう仕草まで、すべてが僕のツボ。
  「数字は忘れて」
そんなことまで言って、頭から数字を振り落としている先輩に、
僕は、笑いをかみ殺すのに苦労した。


2011/01/29

先輩は数字で頭がパンク、後輩は先輩で頭がパンク
説明が必要とは、情けない・・・・・