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ああ、ああ、と私の心は何度も叫ぶ。

絶対、こんな未来があるってわかってた。
わかっていたのに・・・・・
なんで、涙が出てくるんだろう・・・・

ずっとずっと見てきた。
その背中を追ってきた。
成長するその背を見てきたの。
そのとき、そのときに、チラリと見せる、成長したサスケ君の顔を、私の中に静かに重ねて、私も必死に頑張ってきた。
初めは私が先行し、やがて追い抜かれ、そしてその背だけを見て。
サスケ君を理解したいと思い、その視線を追うだけの私には、それしかできなかった。
口づけは一度目は軽く触れて、二度目は角度を変えて私の唇を割り、三度目は私がサスケ君の唇を割る。

「サクラ・・・」

サスケ君の声が、心地よい振動で、私の鼓膜に触れる。
初めて聞く優しい声音。
いつも彼が、世界に向けて鋭く放っていた声じゃない。

わかったつもりでいた。
カカシ先生に諭され、慰められ、自分の有り様を理解しようと努めた。
ナルトとの凄まじい闘いを目の前で見せられて、見守るしかない自分を、自分なりに解釈しようとした。
でも、ちっとも納得なんてしてなかった。
こうしかできない自分の存在を、認めたワケじゃなかった。

でも。
でもね。

「サクラ」

その、自分でも可哀想に思うくらいいじらしい時間を経て。
今。
今。
本当にわかったの。

サスケ君が、少しその腕の力を緩めて、私を正面から見る。
私の目から落ちる涙を、その柔らかな視線がゆっくりと追い、サスケ君は、あの初めて会ったときの少年の面差しを残したまま、私に笑う。
顔を近づけて、私をあやすように、鼻同士をつける。

「来てくれて嬉しいよ」

音がするように、私の心が、一気に晴れ上がる。
私の手放しの喜びは、私の視界の明度も上げる。
一気に、またあふれ出す涙に、サスケ君がちょっと困ったように首を傾げて、その唇で頬の涙を拭う。

「こんなとこで、ごめんな」

そう言って、私を再び強く抱きしめる。
私も強く抱き返し、その肩に頭を押しつける。

私、本当に、今、わかったの。
この湧き上がる抗えないものが、本当の愛だったって。
時間をかけて、悔しさも、惨めな気持ちも、もどかしい気持ちも、全部、全部栄養にして、私は、この愛を育ててきたんだって。

二人だけなのに、
二人だけの時間なのに、

私の心には、木ノ葉のみんなの顔が浮かんできて、
流した涙の何パーセントかは、感謝の涙だった。


【続く】