23.1秒より短い [ナルカカ]




俺には窓から入るなと言っておきながら、先生が窓から入ってきた。
しかもいきなり。
  「げ!!今、風呂から出たとこっ・・・・」
俺が慌てると、
  「お前、本当に忍者か?」
とか言って、一歩でグンと俺に近づくと、俺からタオルを奪い取って、ポンと椅子の上に放り投げた。
  「うわっ!!な、な、なんだってば!!」
  「俺が敵だったらどうすんの?」
笑ってる・・・・
ああ、もう、そんなバカなことを!!
先生だから、こうじゃん、俺。
敵だったら、一歩たりとも入って来れないよ。
でも、服装的に劣勢な俺(俺:裸、先生:フル装備)の状況は、心理にも微妙に影響するらしく。
改めて見ると(若干、見「上げる」だけど)、先生ってカッコイイ。
背が高くて、男らしいのに、どうして俺はこの人を・・・・
ちょっとした隙ができて、俺は先生にベッドに押し倒された。
  「ちょ・・・ちょっと・・・」
グンッとベッドのスプリングが沈み、先生は今や俺の上。
  「本当にお前、火影候補?」
先生がこちらを見下ろす、そのきれいな目差し。
整った鼻筋をツンと上に向けて、ああ、俺だけじゃないよなあ、こんなカッコイイ人に夢中になるのはさ。すげえ心配・・・・
  「ああ、そうだってば。言っておくけど、先生だけなんだからな」
  「は?なにが?」
  「俺の調子を滅茶苦茶にすんのはよっ」
  「ははっ!お前、俺に振り回されてんの?」
きっちり言葉にされて、凹みながら俺は頷く。
先生は、今度はちょっと無表情になって、俺の顔に自分の顔を近づけて来た。
  「じゃあ、この仕返しは成功だな」
言葉の意味なんかわからない。部屋の陳腐な照明をバックに、暗い影の中で見る先生の顔の造形は、俺と同じ年嵩に見える。
  「し・・・仕返し?」
ああ、と言って先生がベッドから飛び降りる。
その動作は綺麗で、ベッドのスプリングはゆっくり戻り、跳ねることもない。
部屋の中央に立つ先生は、これまた俺を圧倒するカッコ良さ。
ああ、素敵だ~~!!!
  「お前があんまり俺を振り回すからさ」
  「・・・・へ?」
  「たまには俺が引っかき回してやろうと思って」
な、な、なんなんだよ、この人!!
と、先生はもう開いたままの窓枠に飛び乗っている。
  「せ、先生っ!ちょ、な、何だよっ!!」
  「じゃあね」
  「ま、待て、待てって!!おいっ!!!」
俺は叫んだが、気づくと、暗い夜空をはめ込んだ窓枠に、ただ手を伸ばしているだけ。
あっという間の出来事に、俺は唖然と、そのアホな姿勢のまま(かつ、全裸)しばらく固まっていた。

あっけにとられていたのもそうだが、
本当は凄くドキドキしていた。

  「俺に・・・・」
あの先生が、
  「振り回されているって・・・?」
確かに、そう言った。
俺にこんなカワイイ仕返しをしたくなるほど、俺に振り回されてる先生!!

  「すげえ・・・」

それは、先生の事を考えたときに俺の股間を直撃するような、いつも感じる衝撃じゃなく、
俺の心臓をじんわり切なくする、なんか、そんな類の何かだった。
がつんとすごい力なのに、その勢いは柔らかく・・・・震えるように嬉しい。

俺はそのままベッドに上体を倒し、心が笑うままに、寝具に潜り込む。

先生、先生、先生・・・・・

何度も何度も、喉の奥で先生を呼んで。
あっという間の先生の告白を、俺は長く自分の中に留めようとした。




2012/07/09