Sonatine

※ BGMは、「Sonatine」です




今日の僕はエロい。


人間は、見事に365日盛っているが、今の僕の状態を考えれば、今までの僕は、およそ人間ではなかった、と言える。
すごい。
形は人間なのに、定義で人間じゃないなんて。
そんなことを考える僕は、かなり大人だ・・・・・

  「人間じゃないなら、化け物だろ」

おい。
アナタが「はたけカカシ」という呼称じゃなかったら、瞬殺ですが。
よくもまあ、この僕に向かって、禁句中の禁句を・・・・

  「俺やナルトと同じ、ね」

あ。
そうきましたか。
やっぱり僕は、アナタが好き、みたいです。
だって、僕が人間に昇格できたのは、アナタのおかげなんですから。





夕日の中で、化け物の僕に、躊躇無く近づいて。
僕の胸に、ドンと拳をあてた。
  「さっすがだねえ、今日は、助かった」
時々の任務で、本当は全部できるだろう事を、僕に頼るアナタ。
そして、これっぽっちの計算もない笑顔で、感謝してくれる。
僕の頬が赤いのは、夕日のせいじゃありません。
この、身体の内側から湧き上がる、ジリジリしたものは、なんなのでしょう?

アナタの髪が夕日に輝き、
アナタの目が僕を映して、
アナタの手が僕に触れているから、

僕はジリジリする。
これは、ケミカルなものなんだろうか?
単なる、かがくはんのう・・・・
人間じゃなかった僕には、とても難しい問題でした。





選択はそれしかなかったから、残ったチャクラと相談して、犠牲になっただけなのに。
僕がそうしなかったら、結構やばかったから、結果的には、GJだったはず。
荒れた激戦の跡に立ち尽くし、みんなが遠巻きに見て、僕に近づこうともしない中、
いきなり僕の目の前に立って、怒ったような目差しで僕を見ましたね。
僕の無茶を怒鳴られるかと思って身構えたのに、
  「悪かった。俺がもっと早く来ていれば」
と、アナタは僕に謝った。

殴られたような感じがした・・・・本当です。
アナタの言葉が、滅茶苦茶に、僕を打ちのめした。
言葉の暴力って、こういう事なのかな?
でも、気づいたら僕は涙を流していて、自分では理解できない自分の変化に、ちょっと怯えた。
そう、変わってきていることだけは、かろうじて理解していたんです。





時間は、僕らの事などお構いなしに、どんどん進む。
そして、またアナタの近くに来た。
僕は、まだ化け物のままで、でも、そのことの意味なんて考えたこともなかった。
僕が進むのに倦んでいても、流れる時間は、かわいい使者を僕に遣わす・・・・


サクラに借りた小さなプレイヤーで音楽を聴く。
彼女には、僕が唐変木に見えるらしい。
  「そんなことないよ」
  「そうかしら」
サクラが大きな目を上目遣いに僕を見て、それを素直に可愛いと思う。
  「だって、ボクはサクラが可愛いよ」
  「まあ・・・・」
てっきり恥ずかしがると思ったサクラは、呆れたという表情をした。
  「それ、ただのオッサンだから」
でも、こんな音楽を貸してくれて、サクラなりに心配してくれているのは、嬉しくてくすぐったい。
アカデミーの校舎の屋根に上って、一人、音楽を聴く。
乾いたトタン屋根は、日が落ち始めた今は、緩くて気持ちいい。
耳から広がる音符の洪水は、すぐに僕を満たした。

ああ・・・・

溢れた音は、僕の心にジリジリした情動を生んで、音に乗った歌詞が、僕を打ちのめす。
そうか・・・・
アナタが僕にしたのと同じ事を、この音楽は僕にする。

これは・・・・


恋なんだ

ああ、僕は「恋」をしている・・・





サクラに、プレイヤーを返しに行ったとき、
  「意外と良かったよ」
と、なぜかちょっと悔しくて控えめに礼を言った僕を、サクラは目を大きく見開いて見た。
  「ん?」
僕が問いかけると、急にハッと我に返ったように、
  「隊長って、結構・・・・」
  「けっこう・・・なんだい?」
  「あ、いえ、その・・・・・あ、ハンサム、そう、ハンサムね!!」
と、思いがけないことを言う。
  「だ、ダメだよ、サクラ。そういう、ボクは・・・」
慌てる僕にニッコリ笑うと、
  「ちょっと安心しました」
とか言われて。
小鳥のような笑い声と一緒に走り去る、サクラの後ろ姿を見送る。

サクラの指摘は正しかったようです。
今、僕は、こんなに発情している。
今までの僕は、恋も愛もない、ただの木偶でした。

アナタが好きだ。
僕のすべてを滅茶苦茶にするアナタが、本当に好きだ。
乾いた木が、雨期の水を吸い上げるように、僕の中は、アナタへの思いで満ちている。
やっと、僕は人間に、なりました。


ただ・・・・

  「化け物同士、メシに行くってばよ!」
ナルトがアナタの手を掴んで、先に歩く。
首を後ろに向けて、僕に呼びかけるのも忘れない。
アナタまで、後ろを向いて、僕を確認しようとする・・・・
その向こうに、いつもの夕日が、ダイナミックに落ちていく。


人間一年生の僕には、世界が眩しすぎて、ちょっと困ります




2011/02/19