Sonatine
※ BGMは、「Sonatine」です
今日の僕はエロい。
人間は、見事に365日盛っているが、今の僕の状態を考えれば、今までの僕は、およそ人間ではなかった、と言える。
すごい。
形は人間なのに、定義で人間じゃないなんて。
そんなことを考える僕は、かなり大人だ・・・・・
「人間じゃないなら、化け物だろ」
おい。
アナタが「はたけカカシ」という呼称じゃなかったら、瞬殺ですが。
よくもまあ、この僕に向かって、禁句中の禁句を・・・・
「俺やナルトと同じ、ね」
あ。
そうきましたか。
やっぱり僕は、アナタが好き、みたいです。
だって、僕が人間に昇格できたのは、アナタのおかげなんですから。
◇
夕日の中で、化け物の僕に、躊躇無く近づいて。
僕の胸に、ドンと拳をあてた。
「さっすがだねえ、今日は、助かった」
時々の任務で、本当は全部できるだろう事を、僕に頼るアナタ。
そして、これっぽっちの計算もない笑顔で、感謝してくれる。
僕の頬が赤いのは、夕日のせいじゃありません。
この、身体の内側から湧き上がる、ジリジリしたものは、なんなのでしょう?
アナタの髪が夕日に輝き、
アナタの目が僕を映して、
アナタの手が僕に触れているから、
僕はジリジリする。
これは、ケミカルなものなんだろうか?
単なる、かがくはんのう・・・・
人間じゃなかった僕には、とても難しい問題でした。
◇
選択はそれしかなかったから、残ったチャクラと相談して、犠牲になっただけなのに。
僕がそうしなかったら、結構やばかったから、結果的には、GJだったはず。
荒れた激戦の跡に立ち尽くし、みんなが遠巻きに見て、僕に近づこうともしない中、
いきなり僕の目の前に立って、怒ったような目差しで僕を見ましたね。
僕の無茶を怒鳴られるかと思って身構えたのに、
「悪かった。俺がもっと早く来ていれば」
と、アナタは僕に謝った。
殴られたような感じがした・・・・本当です。
アナタの言葉が、滅茶苦茶に、僕を打ちのめした。
言葉の暴力って、こういう事なのかな?
でも、気づいたら僕は涙を流していて、自分では理解できない自分の変化に、ちょっと怯えた。
そう、変わってきていることだけは、かろうじて理解していたんです。
◇
時間は、僕らの事などお構いなしに、どんどん進む。
そして、またアナタの近くに来た。
僕は、まだ化け物のままで、でも、そのことの意味なんて考えたこともなかった。
僕が進むのに倦んでいても、流れる時間は、かわいい使者を僕に遣わす・・・・
サクラに借りた小さなプレイヤーで音楽を聴く。
彼女には、僕が唐変木に見えるらしい。
「そんなことないよ」
「そうかしら」
サクラが大きな目を上目遣いに僕を見て、それを素直に可愛いと思う。
「だって、ボクはサクラが可愛いよ」
「まあ・・・・」
てっきり恥ずかしがると思ったサクラは、呆れたという表情をした。
「それ、ただのオッサンだから」
でも、こんな音楽を貸してくれて、サクラなりに心配してくれているのは、嬉しくてくすぐったい。
アカデミーの校舎の屋根に上って、一人、音楽を聴く。
乾いたトタン屋根は、日が落ち始めた今は、緩くて気持ちいい。
耳から広がる音符の洪水は、すぐに僕を満たした。
ああ・・・・
溢れた音は、僕の心にジリジリした情動を生んで、音に乗った歌詞が、僕を打ちのめす。
そうか・・・・
アナタが僕にしたのと同じ事を、この音楽は僕にする。
これは・・・・
恋なんだ
ああ、僕は「恋」をしている・・・
◇
サクラに、プレイヤーを返しに行ったとき、
「意外と良かったよ」
と、なぜかちょっと悔しくて控えめに礼を言った僕を、サクラは目を大きく見開いて見た。
「ん?」
僕が問いかけると、急にハッと我に返ったように、
「隊長って、結構・・・・」
「けっこう・・・なんだい?」
「あ、いえ、その・・・・・あ、ハンサム、そう、ハンサムね!!」
と、思いがけないことを言う。
「だ、ダメだよ、サクラ。そういう、ボクは・・・」
慌てる僕にニッコリ笑うと、
「ちょっと安心しました」
とか言われて。
小鳥のような笑い声と一緒に走り去る、サクラの後ろ姿を見送る。
サクラの指摘は正しかったようです。
今、僕は、こんなに発情している。
今までの僕は、恋も愛もない、ただの木偶でした。
アナタが好きだ。
僕のすべてを滅茶苦茶にするアナタが、本当に好きだ。
乾いた木が、雨期の水を吸い上げるように、僕の中は、アナタへの思いで満ちている。
やっと、僕は人間に、なりました。
ただ・・・・
「化け物同士、メシに行くってばよ!」
ナルトがアナタの手を掴んで、先に歩く。
首を後ろに向けて、僕に呼びかけるのも忘れない。
アナタまで、後ろを向いて、僕を確認しようとする・・・・
その向こうに、いつもの夕日が、ダイナミックに落ちていく。
人間一年生の僕には、世界が眩しすぎて、ちょっと困ります
2011/02/19