10 食べる [ナルカカ]


まだガキだった頃、じつは先生の顔を見たことがある。
しかも、7班全員で。
別に、トラップしかけて無理矢理見たとか、こっそり覗き見たとか、じゃない。


任務と言う名の雑用をしこたまこなして、そろそろ忍者も板についてきた頃。
受付に報告書を提出した俺たちが、たまたま待機所の前を通りかかったら、煙草を吸ってるアスマ先生に、来い来いと手で合図された。
  「おい、お前ら、帰りか?」
  「そうだってば。なんだ、アスマ先生」
  「首尾は?」
  「はあ?全部200パーセントの結果を出して無事終了だってばよ」
吹かす俺に、サクラちゃんが、こらナルト、と袖を引っ張ったのはいつものこと。
  「だってよ、カカシ」
アスマ先生が俺たちを飛び越して、誰かに言う。
え?と俺たち全員が振り返った。
  「よお、お疲れさん」
そこに人がいたのは知ってたが、カカシ先生だったなんて気づかなかった。
だって、マスクをしてない!!!
  「せ・・・先生?!」
サクラちゃんがそう言ったきり固まる。
サスケに至っては、まるで静止画像のように呼吸すら止まっているみたいだ。
  「アスマがさあ、俺が過保護だって言うんだよねえ」
しかも、しゃべってる!!
俺たちが唖然としているのに、いつもの感じで、見たことのない、いい男が、しゃべってる!!
でも声はカカシ先生・・・・・
  「そろそろ、もっと面倒な任務につけろって口出すんだ」
  「あたりめえだ。先生であるお前が、もっとこいつらの力を信用してやらねえで、どうするんだよ」
  「してるよ。お前が放任過ぎるだけだ」
俺たち三人は、上忍のだべりをただただボーっと聞くだけだった。


でも、その帰り道、かなり興奮して、会話したことを覚えている。
  「先生、顔出してたな」
  「ああ・・・」
  「なんか、若かった・・・・」
  「だな」
会話は滑らかじゃなくて、ぽつ、ぽつといった感じだったが、みんな、なんだかとても嬉しそうだった。俺たちの先生が、あんなかっこいい男の人だってことが、子供心に、単純に嬉しかったんだ。 
が、男の俺とサスケはそれだけだ。
サクラちゃんは女の子だから、身近な年上の男である先生に恋しちゃうってこともあったと思うけど、俺たちにとっては、そういう対象じゃないから、男として目指すみたいな目標として以外は、先生を意識したことは無かった。


で。
今現在の話なんだけど。


俺はそのことを、なぜかずっと忘れていた。
カカシ先生の顔を見たという事件(?)のことじゃない。
カカシ先生が「ハンサム」だってことを自体を忘れていたんだ。
・・・・・いや、忘れていたっていうのは、語弊がある。
もし誰かが、「はたけさんってどんな顔?」ってたずねてきたら、迷わず「いい男だってばよ」って返すもんな。
じゃあ・・・・意識してなかった?
そうだな、そういうことになるのかな。

だから、俺自身、今、湧き上がりつつあるこの感情をどう説明していいかわからない。
俺の目の前で、マスク外して(あたりまえだが)ラーメン食べてるこの人を見てると、こう、なんかもやもやする、この、この感じを、だ!!!

  「ナルト、もっと喰えよ」

その人は、麺をチュルッとすすりながら、俺に言う。
久しぶりに会っていきなりラーメン屋、っていう相変わらずの親近感と、あんまりその顔に慣れてないんですけど・・・的なバラバラ感が、俺の心臓をドキドキさせて、しかもなんかいたたまれない。

  「俺の見てたって、やらないよ(笑)」

湯気で鼻先を赤くして、からかうような目つきで笑うこのかっこいいお兄さんが、どうしてもカカシ先生だっていう実感がねぇよ・・・・(汗)

  「も、貰おうだなんて思ってねえよ!!ミソチャーシュー、おかわりっ!!」
  「俺も!!ナルトよりシャーシュー多くして!」

うわ。
そりゃ、俺より身体でかいから、喰うよな。
でも、ただでさえ、この顔に圧倒されてんのに、この顔で凄く喰うとか、なんか、別なトコがまた刺激される感じで・・・・・
ああああ・・・・・もうやめて。
なんなの、コレ・・・・

  「先生、そんなに喰って、仕事大丈夫?」
  「お前だって同じだろ?」
  「俺はまだ若いから、すぐ消化するってば。先生は脂が堪えるだろ?」
  「フン。こんなにニンニクの臭いさせて、任務もクソもあるか。このあとオフだ」

先生のすねたような「フン」に俺はまたドキドキする。
ああああ、もう、どうしたんだろう、俺・・・・・・・
しかも、先生の「オフ」って単語にも、脳髄が激しく反応した。
「オフ」だぞ!!先生のプライべート!!!
・・・・・・・・・・
なんだろ、俺・・・・
病気かな・・・・・・

  「ナルト?どうした、急に大人しくなって・・?」
  「アンタが元気よすぎるんでしょ?」
  「ははは・・・・変な奴」

先生は、はははと大声で笑い、それはまあ考えれば、俺という教え子と一緒で楽しいってことなんだろうけど、先生の顔、いや先生は、俺たちが成長すればしただけ俺の年齢に近づく変な感じがあって・・・・・・
本当に、本当に、俺はこの人と、どんなスタンスでいればいいか、わからなくなっていた。

  「先生、今何歳?」

思わず言い放った俺の質問に、先生は「?」という顔をして、

  「29だと思う」

と素で返してきた。
俺の中で、蓋をされた何かが獰猛に暴れているのを感じる。
九尾が暴れたって、こんなにドキドキしない・・・・・

わかった、わかったってば、俺!!

俺は先生を見る。
もういいよ。
降参だ。
これが「恋」って奴だとしてもね!!
認めるよ。

猛然とラーメンを食い始めた俺に、先生がびっくりする。

  「どうした?」
  「しゃべって腹が減っただけ」

目を丸くして、俺の口に吸い込まれるラーメンを目で追う先生は、開き直った俺に、強烈に、こう・・・・・キタ。
ま、なんていうか、この29歳は、充分15歳の射程範囲だってことか。

  「食欲は負けそうだな(笑)」

先生が、なぜか嬉しそうに言う。
俺は、先生の視線を避けて、ラーメンに集中する。

あたりまえだろ。
喰えるんなら、ついでにアンタも喰いたいんだもん。
・・・・・と思って、でももちろん言わなかった。




2011.01.29.