昨日の欲望、今日の純愛 3




室外の喧騒が、急に聞こえてくる。
黙ってしまった先生と、死にそうに心臓がうるさい俺・・・・・・
先生の指が、シーツの皺をなぞっている。
先生のそんな姿を見るのは初めてで、さっきの疲れたような笑顔と一緒で、
ああ、何かが動き始めるんだと、ナルトは、自分の心に言い聞かせる。
傾いていく穏やかな日の光は、ゆっくりと室内を染めている・・・・

やがて、長い沈黙に、カカシが顔を上げた。
不意を突かれて、ナルトがグッと見つめ返す。
  「それだけ?」
カカシがそう言った。
  「それだけ・・・って?」
必死に乾いて引きつる喉を動かして、ナルトが問い返す。
  「それだけか?お前の言いたいこと」
  「は?言いたいこと・・・って・・・」
カカシの意図がわからずに、ナルトは動揺して身じろぎした。椅子が床を擦り、キーッと悲鳴を上げる。
  「ふん・・・ガッカリしたろ」
  「え?」
  「お前の先生はそういう男だよ」
グッと何かが胸を衝く。

先生・・・

カカシ先生・・・・

  「ふん、俺だって知ってるよ」
気づくとそう言っていた。
カカシが驚いて、その目を大きく見開く。急な動きは、いくらか痛みを伴うらしく、左目をちょっと歪めた。
  「へえ・・・知ってたんだ・・・」
ゆっくり写輪眼を閉じながら、半分笑ったような顔でカカシが言う。
  「ああ。先生は綺麗でカッコイイからな」
カカシが唇を歪める。ナルトの言い草に怒っているのかもしれない。グッと奥歯を噛みしめているような顔は、もしかしたら、泣くのを我慢しているようにも見えた。
  「みんな、先生のこと、好きになっちゃうだろうな」
  「俺を・・・」
カカシが言う。
ナルトが見返す。
  「俺を罵倒しに来たんじゃないのか・・・?」

ああ・・・・
そんなこと、考えてたのか・・・・

胸に湧き上がる衝動は、もう、それがどういうものか、わかっていた。
愛しい。
ただひたすら、愛しかった。
本当は色々言いたいことがあるだろうに、開き直るそのセリフも、俺のセリフに驚く顔も。
ナルトは深く息をして、カカシを見た。
その、思ったより線が細い肩も、
男らしいのに繊細な指の形も、
暖かい日の中で僅かに傾けられた形良い頭部も、
そう、何もかも、
まだ、俺たちの先生でいるこの人を、記憶に残そうと、ナルトは必死だった。

もう、進んでしまうから
俺はこれ以上、我慢できないから
先生を、一人にしておきたくないから

ナルトが手を伸ばす。
カカシは、今度はその指先を見た。
  「ナルト・・・」
  「ガッカリもしないし、軽蔑もしないよ」
指先がカカシの頬に触れた。
  「先生は、そんな人間じゃない。軽蔑されるような人間じゃない」
驚いて口をぼんやり開けるカカシの頬から、生きている体温がじんわり伝わってくる。
  「はたけカカシはいつも一生懸命で」
綺麗だ、先生。透明な色が、先生にのってるよ・・・
  「そんな必死な時間を、懸命に生きるためにしてきたことに」
  「ナルト・・・」
  「俺が、どうしてガッカリする?どうして軽蔑するんだ?」
カカシが頬のナルトの指を払おうとした。そうさせまいと、ナルトはカカシの両頬を両手で包む。
カカシは収まらず、思わず離反の術をかけてナルトの手や身体をはねのけようとした。
が、ナルトはビクとも動かなかった。
  「ナルト・・・」
術を生身で受けて、それでも動かなかった。
  「先生・・・・安心してよ」
  「お前・・・」
  「俺、すっごく強くなったんだよ」
もう、先生の生徒じゃない。
先生も、もう先生じゃない。
カカシの反応など無視して、ナルトはカカシの唇に口付けた。


頭のどこかで、カチャリ、という音がした気がした。
それほど、変化は劇的だった。


  「ずっと前から、好きだったよ、先生」
言いながら、理解していった。
  『俺はずっと好きだったんだ』
至近で見つめて、もうカカシは抵抗しない。
  「覚悟が決まるまで、進めなかっただけだ」
居酒屋の風景がよみがえる。嫉妬で狂いそうで、でも、自分が受け入れられる可能性に安堵して・・・
  『そうか、俺も、臆病だったんだ・・・・』
あんな噂に触発されるなんて。
でも、進むべき一歩を進めたのは、あの、残酷な会話のせいだった。
そう思い、ナルトは身体を突き破りそうな勢いをもった様々な感情を、今、初めて、意志的に制御していた。
  『大人って・・・結構ハードだ』
いろんな思いを込めて、また、カカシに口付ける。
  「チャクラまで使って・・・・馬鹿だな」
キスされるまま、カカシは応えない。
  「先生、ホント、足りないトコあるから、俺、心配だよ」
  「なんだよ、足りないって」
そこにはすぐに反応して、ナルトを笑わせる。
  「ごめん、そうじゃない」
  「なんだよ?」
  「側にいたい俺の口実・・・だよ」

カサリと音がして、戸外の葉が、透明な光の中、落ちていく。
ナルトの目が、その黄色い葉とカカシの伏せた瞼をセットに見て、確かに動き始めた新しい時間を感じていた。



2009.06.19

続きます・・・・